週刊文春 1998年10月8日号 (1998年10月1日発行)より転載

【私の読書日記】

「チャレンジド」から学べ

◎ノンフィクション作家 久田 恵

×月×日

この情報スモッグとかに覆われた混迷の時代に、私がパソコンやってどうなるの? とモヤモヤし始めていたら、そこに一条の光が射し込んでくる本に出会った。

ハイテク情報機器は、実はどのような人々を解放するのか、という示唆深い本。竹中ナミ『プロップ・ステーションの挑戦』(筑摩書房 1810円+税)だ。

手に取って、アッと思った。著者があの彼女だったから。何年か前、テレビのドキュメントで「障害者を納税者に!」と主張するのを見て、凄いヤツがいる、と思った。誤解を招くかもしれない、でも福祉分野に革命を起こすだろうこの台詞を、ためらいなく吐く「ナミねえ」(と彼女は呼ばれている)の勇気に同世代の団塊女として、敬意を抱いた。

この本は、「障害」を持つ人たちを「チャレンジド」、「神から挑戦すべきことを与えられた人々」と呼ぶ視点に立ち、彼らの就労自立を支援する「プロップ・ステーション」を立ちあげていった著者自身のドキュメントである。

そして、プロップの武器は「パソコン」。これぞ在宅就労を可能にし、仕事の世界をバリアフリーにし、「チャレンジド」たちの自己表現回路を開く、ということで、彼らのためのパソコンセミナーを開き続けた。

パソコンの技術者、霞ヶ関の官僚、企業人、研究者、次々と現れる協力者たち。あのマイクロソフト会長のビル・ゲイツから機関誌用の原稿までもらった。その経緯を読むと、心底、世の中も人もパソコンも捨てたもんじゃない、という気持ちになる。

この「ナミねえ」は、重度の心身障害を持つ娘の母でもある。ウチの娘のように仕事のまったくできないものが支えてもらえる社会にするには、障害があっても能力を持っている人は皆支える側にまわれる社会にならねば。パイオニアは大変だけれど、その困難に挑戦する人がいないと世の中変えられない、皆で手伝うから頑張ってや、ということなのである。

困難な中で、本質をつく発見をし、挫折の中で学ぶ人を真に聡明な人、力量のある人、というのだと、私は実感してしまった。

そう、「ナミねえ」から学べ、「チャレンジド」から学べ。とくに仕事に躓いているサラリーマンの方々には必読の書だ。読めば必ず勇気をもらえる。

『プロップ・ステーションの挑戦』

ページの先頭へ戻る