FINEおおさか 1998年秋号 より転載

いま、障害者の就労は…

チームを組んで在宅就労  ヴァーチャル(仮想)工房

チャレンジドとは、神様から挑戦すべき課題や才能を与えられた人という意味で、アメリカでは障害者の意味をもつ。そのチャレンジドの在宅就労を支援するプロップ・ステーションは、いま"旬"の団体だ。8月には産官学と共同で障害者の就労について評議する国際会議「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」を成功させ、10月からは社会福祉法人として新たに船出する。 主な活動は、ボランティアを講師に迎えて開いているコンピュータ・セミナー。技術をチャレンジドに習得してもらい、彼らの就労促進を図るのが目的だ。

「チャレンジドを納税者に」をスローガンに掲げるプロップ代表の竹中ナミさんは、「これまでは、チャレンジドは社会から支えもらうのが当然、という風潮があったように思うんです。私たちの活動はそうではなく、障害者が働くことで、それまでの福祉の対象から、社会を支える側に回ろう…という試みです。そうすることでチャレンジドも誇りを持って生きられる」と話す。 その際の武器となるのがコンピュータ。「人間は飛行機を発明して、鳥のように空を飛ぶ夢を実現した。チャレンジドにとってコンピュータは、自分の能力を大きくはばたかせる可能性を秘めた、画期的な道具なんです。いわば自由にはばたくための翼でもあるんです」とも熱っぽく語る。

いまではセミナーを終了し、在宅就労している人は全国で30人以上にもなった。その中から生まれた「ヴァーチャル(仮想)工房」は、関西在住のチャレンジドからなる、共同プロジェクト・チーム。メンバーの中には若年性関節リウマチや脳性麻痺など重度の障害のある人もいるが、コンピュータを用いて絵の才能や文才を活かし、健常者に伍して在宅での仕事に取り組んでいる。

ヴァーチャル工房の代表的な仕事に、NTTから受注しているものがある。同社がボランティア活動支援のために、インターネット上で開いているホームページ「ハローねっと・ぼらんてぃあ」。そこにイラスト付きリレーエッセイを制作する、というものである。これはけっして、彼らが障害者であるからではなく、優秀なクリエイターと評価されての依頼であり、受注だ。メンバー全員が顔をあわせるのは週に1度のミーティングだけ。それ以外は電子メールで打ち合わせする。通勤に困難を覚えるチャレンジドにとって、理想的な働き方であるのは言うまでもない。

工房代表で、魅力的なメルヘンタッチのイラストで定評のある久保利恵さんは、「企業と長時間の契約ができたことはとても励みになる。
責任を持って仕事をしていきたい」と抱負を語る。 このような工房を立ち上げた理由について竹中さんは、「チャレンジドは社会経験が少ないゆえに、営業経験も少なく、激しい競争の中で自分を守る力もない。そういった面でサポートし合うとともに、団結することでお互いの不得意分野をカバーし合って、より大きな仕事を受注できると思うんです」と語る。 

9月からプロップ・ステーションでは、労働省主催の「重度障害者の在宅雇用・就労支援システムに関する調査研究会」に参加し、ヴァーチャル工房のような実験的組織において、在宅就労する際のチャレンジドのニーズと企業側のニーズについて調査・分析し、さまざまな提案を行っていく。「これからは1日数時間でも働ける人を増やし、高齢社会を支えていく時代。1日8時間と定められた企業での雇用に加えて、アルバイトをも含む就労という柔軟な働き方が認められれば、障害者の働き口は大きく広がります」と、竹中さんは研究会でも在宅就労の機会開発を積極的に提案していく予定だ。

今後は「セミナー修了生に、オンライン上で教育できるようなソフトの開発も進め、在宅スキルアップ・セミナーを充実させていきたい」とも竹中さん。プロップ・ステーションと、そこから生まれたチャレンジドたちの「ヴァーチャル(仮想)工房」。その活躍に、いま熱い視線が注がれている。

問い合わせ先
TEL 06(6881)0041
ホームページ http://www.prop.or.jp

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