internet@ASCII 1998年4月号より転載

インターネットとChallenged

インターネットは打ち出の小槌。重度障害者の社会進出を支援するナミねぇのパワフルエッセイ開始!

竹中ナミ(nami@prop.or.jp):コンピュータネットワークを利用することで障害を持つ人々の社会的自立を目指すNPO「プロップ・ステーション」を'92年4月に設立。会員から「ナミねぇ」と慕われる組織の大黒柱。しゃべりはバリバリの大阪弁!

vol.11 プロップ・バーチャル工房誕生の巻

「ええ仕事しまっせ!」

これがプロップ・ステーションの機関誌『Flanker19号』(1月末日発行)特集ページのタイトルです。昨年11月に発足した「バーチャル工房」と、すでにいくつかの仕事を請け負った経験を持つ「データベース・グループ」のメンバー紹介や実績を特集しました。特集を組んでみて改めて感じたのは、「えらい障害重い人がそろってんなぁ!」ということです。
メンバーのほとんどが上肢と下肢や、体幹、言語などに重複した障害を持つchallengedで、そのうえ、難病も重なってまっせという人もいて、「バリバリのchallenged」ばっかし!

それにしても、みなさん、すごいエネルギーですわ。ナミねえもタジタジ。
「ええ仕事しまっせ!」というのは、そういうchallengedたちからのメッセージとして、「お仕事ください」「仕事します」などいろいろなタイトル案が出たなかで「ナミねえ軍団としては、やっぱこれやね」ということで決定した強烈な一言です。 
読者のみなさんの勤務先で「challengedの仕事ぶりを見たろうやないの」という声があれば、ぜひご紹介ください。ほんまに「ええ仕事しまっせ!」(^^)

バーチャル工房の誕生

ところで、プロップがchallengedを対象にしたコンピュータセミナーを開始して、丸6年が経過し、受講生やOBはプロップのコーディネイト(営業!)によってさまざまな仕事を在宅で請け負っています。challengedが取り組んだ、最近の主な仕事を揚げてみると……、

  • 関西電力45周年記念事業 ひらめき大賞ビジュアル部門担当
  • NTT「ハローねっと・ぼらんてぃあ」 表紙デザイン&データリサーチ担当
  • IBM「情報弱者支援システム」 ノーツ・プログラム開発担当
  • (財)社会経済生産性本部 ホームページ制作とメンテナンス
  • 「ふれ愛ピック」(大阪府) ホームページ制作とメンテナンス
  • 松下電器 イントラネットホームページ制作
  • マイクロソフト イントラネットホームページ制作
  • NTT「地球温暖化防止京都会議エコゲーム100万人の誓い」 キャラクターデザイン
  • 「歯科衛生士」(月刊誌) challengedメンバーのリレー・エッセイ執筆
  • 同志社大学ラグビー部ファンクラブ ホームページ制作
  • N薬品 治検データベース作成
  • H自動車 フランチャイズ顧客とのネットワーク・データベース作成

−などなど。データベースなどのプログラミング系も頑張ってるけど、ホームページ・コンテンツの制作やデザインなどグラフィック系の仕事が増えていることが特徴です。こうした追い風(!)に乗るべく昨年11月に発足したのが「プロップ・バーチャル工房」というわけです。それより前の10月、プロップでは「challenged Art展」を開いたんですが、その面々が、展覧会終了後「在宅者のグループで仕事をこなしていく」という新しい試みにチャレンジしようと生み出したものなんです。

7人のメンバーで構成され、リーダーは絵本作家志望の久保利恵さん(24歳)、副リーダーは、この連載でみなさんおなじみの幾くんこと吉田幾俊さん(40歳)と、児島加代子さん(23歳)。3人はそれぞれ「ウエルドニッヒ・ホフマン病」、「重度脳性マヒ」、「若年性リュウマチ」という全身性の障害を持っています。加代子さんは電動車いすとリフトワゴン車を使い、利恵さんと幾くんは家族やペルパーさんに車いすを押してもらって、プロップのグラフィックセミナーに通って技を磨いた仲間同士であり、同時に良きライバルです。

仕事がやってきた!

さて、このバーチャル工房に、発足早々大きなチャンスが舞い込んできました。「関西電力げんきエネルギー21シニア・フェスタ」という、関西電力と高齢者関係の市民組織80団体が共同で開催する大きなイベントに、「介護を受ける当事者ならではのアイデアで、高齢社会を明るく乗り切る知恵を出してほしい」というご依頼を受けたんです。「ほんまに在宅のメンバーでグループワークができるんか?」という不安はあったものの、ボランティア講師、川畑さんの「コンペ形式で競い合って仕事を完成させたらどないだ」という一言で、さっそくパソコン通信上のブレーンストーミングを開始しました。
まずは、7人のメンバー1人1人がアイデアを出し、練り、絞り込み・・…、12月初旬までの1カ月間、毎日数十通のメールが飛び交った結果、「高齢化時代のまちづくり」、「デジタル・ユートピア(高齢社会における高度情報ネットワーク)」、「高齢者生活支援」という3つの作文が企画案として採用されました。どれも、イベントで発表するものだから夢のある企画を、という姿勢を基本にしています。

「高齢化時代のまちづくり」は、「高齢者や障害者が増加する社会では、介護者不足が避けて通れない問題になり、1人でも多く自立的な生活を営むためには、街全体を根本的に作り替えることが必要」という認識に基づいて、「高齢者に優しい、広くて平坦な歩道」を日本中に張り巡らせ、「空飛ぶジュータン・バス」や「持ち運びに便利なカプセル式自動運転自家用車」、「寒い冬の外出にシートが暖まる車いす」などを開発し、高齢者だけでなく自分たち障害者や妊婦、乳幼児を連れた人たち、ひいては誰でも優しい街を作ろうという内容の作文です。

「デジタル・ユートピア(高齢社会における高度情報ネットワーク)」では、「人が生き生きできるのは、人に頼られていると実感すること」というプロップ・メンバーの日頃の持論をもとに「万人が生涯にわたって才能を開花させ、学び合い、刺激し合う社会」を実現するため、「昔とった杵づか・共済」という愉快なアイデアを生み出しました。「昔とった杵づか・共済」に登録し、「講師」を務める人のために、さまざまなサポートロボットが活躍するというアイデアです。「講師テキスト作成ロボ」「要点要約補足ロボ」「失言修正ロボ」などが体力や知力の衰えをカバーします。

「高齢者生活支援」では、精神の支えとなると同時に介護や緊急通報を行う「ロボット・ペット」との生活や、室内の重力を簡単に変更できる装置で介護や身辺自立を容易にする、といったアイデアが提示されました。

この3つの文章のグラフィック化は、これまたバーチャル工房メンバーがコンペ形式で競い合い、4人の作品が選ばれました。作文・グラフィックともに、出来映えに応じた制作費が支払われます。友達でありながらライバルでもある、というプロの世界に足を踏み入れたバーチャル工房の面々の表情は、今までにない引き締まったものでした。

全国からのご応募お待ちしています

関電シニア・フェスタに作品を納めた工房メンバーに対し、今度はNTT出版からお仕事がきました。「Web上のリレー・エッセイとイラスト作成」がそれです。NTTのハローねっと・ぼらんてぃあ(http://www.wnn.or.jp/wnn-v/challenged/dream/)の新しいコーナーとして、「チャレンジドの夢」というタイトルで、工房メンバーがエッセイとイラストを連載することになったのです。1月下旬より連載を開始、なんと1年後にはNTT出版から本にして世に出す、というラッキーな企画です。
この連載については工房メンバーだけでなく、全国のchallengedたちにもぜひチャンスを差し上げたいと思っています。「私の作品を見て!」と思われる方は作文、イラスト(JPEG形式)などをナミねえにメールで送ってください。(送り先は、nami@prop.or.jp)。お待ちしています(^^)

「チャレンジドの夢」は、すでにハローねっと・ぼらんてぃあで連載が開始されています。ぜひ見てねっ!
さて最後に、お知らせをひとつ。
2月に冬季オリンピックに引き続き、3月5日には、障害を持つ世界の選手が集まる「長野パラリンピック冬季競技大会」が開催されます(14日までの10日間)。ナミねえは、その前日の3月4日に、パラリンピックに関連して行われるシンポジウム「福祉・情報通信フロンティアin長野」で、基調講演をさせていただくことになりました(http://www.avisnet.or.jp/~shin-rbt/を参照ください)。

みなさん、長野でお会いしましょう!

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