internet@ASCII 1998年2月号より転載

インターネットとChallenged

インターネットは打ち出の小槌。重度障害者の社会進出を支援するナミねぇのパワフルエッセイ開始!

竹中ナミ(nami@prop.or.jp):コンピュータネットワークを利用することで障害を持つ人々の社会的自立を目指すNPO「プロップ・ステーション」を'92年4月に設立。会員から「ナミねぇ」と慕われる組織の大黒柱。しゃべりはバリバリの大阪弁!

vol.9 "マルコ"日本上陸作戦(その2)

前回のあらすじ

今回のお話は、前号の続きです。そこで読んでおられない方のために、前号の内容をまず紹介します。

米国で最近開発、発売された「マルコ・ナビゲーション」というサポート機器があります。公共施設やスーパーマーケットなどどこにでも簡単に取り付けられる発信装置と、利用者が持つ受信装置をセットにしたもので、視覚障害者がこれを持てば、1人で外出や買い物ができるという音声誘導センサーです。ナミねぇは、この装置をなんとか日本でも普及させたいと思い、日本の販売代理店に相談しました。けれど、「そんなもん日本では売れません。販売のための実験もする気もないです」と、けんもほろろに断られました。

日本では「福祉機器」をビジネスにすることが「罪悪」のように思われていて、積極的な宣伝もできないし、まっとうなビジネス競争の対象にもならないので、良い意味の価格競争が起きず、結果として、福祉機器は高額で税金の補助がなければ買えない、という悪循環に陥っています。

そういう現状の中で、販売代理店が尻込みするのは分からないではないですが、このままでは、いつまでたっても、この悪循環から抜け出ることができません。福祉機器は需要と供給のバランスが悪く、作っても労多くしてペイしない、ペイしないから積極的に生み出されない。結果としては、Challenged(障害者)や高齢者のニーズにこたえる製品の普及は遅々として進まない、という状況に続くでしょう。

超高齢化社会を迎えるこれからの日本に欠かせない発想は、「お恵みでない福祉」、「自立できる環境整備」です。Challengedが「1人で自由に行動できるように」ということを基本理念に捉えたサポート機器が普及してゆくために、このマルコ・ナビの日本上陸を1つの試金石にしてみたい、とナミねぇは考えました。

全盲や強度の弱視の人の3分の1が、駅でホームから転落した経験を持つ、という情けない国、日本で、ただ単に「障害者よ外へ出よう!」なんて叫んでもアカン。安全に行動できる仕組みを作らな!と、ナミねぇは心の中で叫んだのです……。
というのが、前号の「あらすじ」です。

戦略会議を開こう!

さて、なんとかマルコ・ナビの日本上陸を可能にしようと考えたナミねぇは、「Challenged Japan Forumのブレーンの皆さんに相談しよう!」と思いつきました。なにしろ、「Challengedを納税者にできる日本」をスローガンに、産官学民のそうそうたるメンバーが集まってくださっているので、きっと不可能を可能にする知恵が生まれるんやないか、と思ったわけです。
そこで早速「ブレーン会議」を呼びかけたところ、マイクロソフトの成毛社長はじめプロップの支援企業を代表する方々、社団法人日本パーソナルソフトウエア協会専務理事の清水さん、通産省、郵政省、建設省、自冶省などで働く若い官僚の皆さん、フォーラム副座長のルーテル学院大学教授の清川慶子先生、報道関係者として月刊ニューメディア編集者の吉井さんが、お忙しい中、集まってくださいました。

戦略会議の結果決まったことは「マルコ・ナビを、きちんと販売できるようにしよう」ということでした。そのために、次回のChallenged Japan Forumはマルコ・ナビのデモンストレーションを兼ねた国際フォーラムにする、ということになりました。開催地は、震災復興の街「神戸」。

会場にマルコ・ナビを取り付け、参加者の皆さんに体験していただくとともに、世界各地から「働くChallengedと、Challengedが働けるシステムを生み出した組織」の方に集まっていただくつもりです。その方々の実践に学びつつ、「Challengedの自立とは?」、「社会参画とは?」、「働くということとは?」という大きなテーマについて語り合い、「Challengedを納税者にできる日本」へ向けて歩み出す具体的な案を立てよう、という企画です。

数日後には、神戸ポートピアホテルがマルコ・ナビ実験装置の取り付けの予算を組むことを快諾してくださり、フォーラム会場に決定しました。
そして、販売代理店への「直訴」を決行することにしたのです。

いざ日本代理店へ

10月3日金曜日。
ナミねぇは東京都大田区にあるキャノン本社のビルに、迷いながら到着しました。そう、マルコ・ナビの日本における販売代理店であるキャノン株式会社の御手洗社長にお会いするためです。東京の地理に疎く、地下鉄を乗り間違えて約束の時間に遅れてしまった大ドジのナミねぇを、一足先に到着した応援者、マイクロソフトの成毛社長と通産省の鈴木さんが、笑いながら迎えてくれました。

不思議な顔ぶれに少し戸惑っておられる御手洗社長に、成毛さんは開口一番「マルコ・ナビを、ぜひ日本で発売してください。私たちが精一杯、販売のお手伝いをします」。そして約1時間、3人で一生懸命、御手洗社長に主旨の説明をしました。

アメリカで長年お仕事をしてこられた御手洗社長は、最初はやはり、アメリカと日本ではサポート機器に対する考え方が全然違うことを懸念し、ためらわれたようです。しかし、最後にきっぱり「分かりました。私も日本の状況を変えるために、マルコ・ナビの日本での販売に取り組んでみましょう」と約束してくださいました。そしてその場で、担当部署である「福祉機器事業室」へ、マルコの見本品の取り寄せると、日本版の開発を指示してくださったのです。

帰りの新幹線の中でナミねぇは、何度も何度も、支援下さる人たちへの感謝の言葉を心の中でつぶやきました。そして、多くの人たちの支援を無駄にしないよう、必ず国際フォーラムを成功させること、マルコ・ナビの取り付けくれる公共施設やスーパーなどを1カ所でもたくさん開拓することを心に誓いました。

マルコ・ナビ到着!

今日は11月21日です。
「今月の原稿の締め切りまで、あと3日ですので、よろしく」というインターネットアスキー編集担当の方からのメールを読んでいると、キャノン福祉機器事業室室長の富永さんから「やっとアメリカから見本品が到着しました。まず英語版の実験が社内でできるよう準備中です」という電話がかかりました。

実験には、もちろん、英語に堪能で、マルコ・ナビの日本上陸をナミねぇの何倍も楽しみにしている全盲の堀田和也くんと、マルコ・ナビの存在を知らせてくれたケンさん、そして、支援者の皆さんに立ち合ってもらう予定です。実験の後すぐに、、キャノンさんには日本語版の開発に取りかかっていただきます。

ナミねぇは、来夏、神戸で開くChallenged Japan Forumの国際バージョンに向けてフル稼働を開始します。
すでにいくつかの自冶体の首長さんや、そのブレーンの方、公共施設の設計を手がけている企業などから、マルコへの関心が寄せられ始めました。マルコ・ナビは、1人でも多くのChallengedが生き生きと行動する街づくりへ向けた、ムーブメントを起こすことができる、とナミねぇは信じています。

さあ皆さん、あなたの街に、マルコ・ナビ、どないでっか!?

日本初!? Web上を使った在宅セミナー

さて、話は変わりますが、次は、「プロップまたも日本初の試み!」のお知らせです。プロップ・ステーションでは、12月から初心者向けデータベース設計セミナー「Access97 基礎講座」をWeb上で開始しました。これは「在宅でデータベースの基礎を勉強したい!」というChallengedの皆さんの声に応えて、実施するものです。中級者向けの在宅スキルアップセミナー「データベース設計講座」の第3期('98年初句に開始の予定)を実施する前に、その準備編として基礎講座を設置することになったのです。自宅のパソコンから、セミナーのホームページにアクセスして勉強し、講師とのQ&A形式で学習を進めていくことができます。詳しい応募方法は、「受講生募集ご案内のホームページ」(http://www.prop.or.jp/dbase/assccess97-kiso.htmlhttp://www.prop.or.jp/dbase/seminar_index.html)にあります。興味のある方はぜひご覧ください。

全国各地のChallengedが、1人でも多くの在宅ワークに向けた勉強が開始できるよう、プロップではこれからもさまざまな企画を立ててゆきたいと思っています。

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