日経産業新聞 1997年12月5日より転載

障害者、SOHOで自立

チャレンジド(障害者)を納税者にしょう──。大阪に本部のあるNPO(非営利団体)のプロップ・ステーション(大阪市、竹中ナミ代表)はこうした掛け声のもと、チャレンジドを対象にした翻訳者養成講座を開設した。インターネットを利用した在宅のままSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)の形で翻訳の仕事をしてもらい、チャレンジドに働く喜びと生きがいを持ってもらおうという試みを始めている。

プロップ・ステーションが開設したのは、「プロップ存宅スキルアッブ・セミナー・翻訳者養成コース」。マイクロソフトの協力で、マイクロソフトが発行する英文のニュースリリースや機器操作用マニュアル、インターネットのホームぺージなどをチャレシジドが運営するSOHOを活用して日本語に翻訳する狙いだ。来年3月からの本格展開を前に現在、全国で7人が学んでいるという。

東京・杉並に住む武者圭さん(32)もその1人だ。武者さんは高校1年生の時、光だけをかろうじで感じることのできる「光格弁」という障害を患った。以来、物の輪郭などがほとんどわからない不自由な生活を送っているが、国立音楽大学で音楽学を学んだ経歴を生かして翻訳者養成講座への参加を決めた。「大学では膨大な外国の文献や資料を読み込むため、英語はもちろん、ドイツ語、フランス語、イタリア語は必修。この知識を何とか生かしたい」(武者さん)との思いからだ。

翻訳者養成、産業用語学ぶ


翻訳者養成講座に参加する武者さん

教材は毎週1回、インターネットを通じて電子メールの形で届く。問題は1回につき英文和訳など6,7題ある。「レベルは工業英検程度」(武者さん)といい、コンピューター関係の専門語など産業、工業英語が必ず含まれる。これを視覚障害者用の音声変換装置や点字翻訳機を通じて理解し、1週間以内に解いて再びメールで返信する。

回答はプロップ・ステーションの講師のほか、マイクロソフトの社員がボランティア活動の一環として添削・指導する体制を整備する。来年初めには中間試験を予定しており、ここで各自の習熟度を確認して一定のレベルに達していたら残り3ヶ月間の後期課程に進める仕組みだ。

講座を企画した竹中代表は、「これまでチャレンジドは、社会に支えられる存在だったが、これからは社会を支える一員として自立し、活躍できる状況を生み出していきたい」と話す。そのためのツールが習熟すればだれでも使うことのできるパソコンであり、その場所が外出しなくても在宅で仕事がこなせるSOHOというわけだ。

プロップ・ステーションではこれ以外にも、チャレンジドを対象にしたSOHO実現に向けた環境整備を矢継ぎ早に打ち出している。

温暖化会議のホームページに一役

その1つが現在、京都で開催中の地球温暖化防止京都会議関連の支援事業。NTT(日本電信電話)が会議をサポートするため開設したホームページ「ストップ!地球温暖化エコゲーム」(ホームページのアドレスは http://www.gsquare.or.jp/promenade/ecogame)の中に登場するキャラクターの作成事業でプロップの会員を協力させるなど一定の成果を上げ始めた。

プロップ・ステーションでは今回の翻訳者養成講座の試みをテコに、協力関係を構築できる企業をさらに増やし、チャレンジド向けSOHOを全国規模で拡大していく考えだ。

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