internet@ASCII 1997年10月号より転載

インターネットとChallenged

インターネットは打ち出の小槌。重度障害者の社会進出を支援するナミねぇのパワフルエッセイ開始!

竹中ナミ(nami@prop.or.jp):コンピュータネットワークを利用することで障害を持つ人々の社会的自立を目指すNPO「プロップ・ステーション」を'92年4月に設立。会員から「ナミねぇ」と慕われる組織の大黒柱。しゃべりはバリバリの大阪弁!

vol.5 21世紀の新しい社会システムを作ろう!

7月7日(月)朝、

東京駅が近づくにつれ、新幹線の中のナミねぇはドキドキしていました。「鉄の心臓に苔が3重に生えてる女」と言われるナミねぇがドキドキするなんて、よっぽどのこっちゃ、と皆さん思いでしょうが、そのよっほどのことが明日起きるというので、さすがのナミねぇも緊張してたんです。「第3回Challenged Japan Forum」。それが、ドキドキの原因。8月号のこのコラムでもお知らせした公開フォーラムが、明日に迫っていました。

会場は、「東京大学山上会館」という、中卒のナミねぇにとっては一生無縁の場所だぜっ、と思ってた東大構内のホール。そこをお借りして、東大社会情報研究所(略称:社情研)の助手の方や、院生の皆さんがボランティアでスタッフを務めてくださるということで、前日の打ち合わせのために新幹線に乗り込んでいたというわけです。

でも、スタッフの方々の暖かい笑顔と熱い眼差しに迎えられ、ナミねぇのドキドキはすぐに収まりました。それにまあ、事前にメールで打ち合わせをしていたとはいえ、「1」を言ったら「5」を理解してくれるような手際のよさにはビックリ。そんなこんなで、深夜におよぶ準備も完了して、翌日7月8日のフォーラム当日を迎えたのでした。

「Challenged Japan Forum」、

略称:CJF。昨年8月31日発足。過去の2回はクローズドなメンバーでフォーラムの方向性を決める話し合いを行ったのですが、第3回目の今回は、初めて一般参加者を募って、東大社情研と(株)ニューメディアとプロップ・ステーションの三者共催による公開フォーラムとなりました。

座長は、東大社情研助教授の須藤修さん。「Challengedの働きたいという欲求を実現するには、本人の意思だけではなくそれを支援するような社会のシステムづくりが不可欠。プロップの提唱する<Challengedを納税者にできる日本>という言葉には、次世代の福祉・経済・社会システムの創造という社会の側の挑戦課題も含意されている。高齢化が急速に進み、意欲のある人々の自立を促す方向へと政策転換を急がねばならない状況にある今日、政府の取り組みにゆだねるだけじゃなく、産業界、官庁、大学、NPO、そしてChallenged自身といったさまざまな立場の人々が一同に集い、21世紀の新たな社会づくりを志向し、行動しょう!」という、須藤さんの熱い呼びかけに、超多忙な中、ユニークなパネラーの方々が集まってくださいました。皆さんのお名前をここに書き切れなくて残念ですが、まさに「産業界、官庁、大学、NPO、そしてChallenged自身」という、各界串刺し(!)のフォーラムとなったのです。

また、NTTの特別協力により、山上会館と慶応大学湘南キャンパス、デジタルハリウッドOSAKA(*1)をTV会議システムでつないでの、3ヵ所中継も実施。山上会館には、予想を超える150名もの参加者があり、冷房の効きがいまいちなのも忘れるほど、熱いディスカッションが展開されました。

総合司会を担当してくださった副座長、清原慶子さん(ルーテル学院大学教授)の、ナミねぇと正反対のキャラクター(才色兼備。そのうえ、声がすっごく魅力的!)と、彼女が細やかな気配りでフォーラム全体を柔らかく、温かい雰囲気に盛り上げてくださったのが、成功の大きな要因やったと思います。

フォーラムの詳しい報告は、


プロップ・ステーションのホームページ。今回のフォーラムのレポートも掲載しています。アクセスしてね!

プロップのホームページ(http://www.prop.or.jp/)をぜひ読んでいただくとして・・・、特に今回のフォーラムでは(この連載でも書いた)全盲の細田和也くんとマイクロソフト社長の成毛真さんの特別対談に大きな関心が寄せられたようです。「ソフト開発のプロ」(成毛さん談)と「プロの視覚障害者」(和也さん談)との、丁々発止のやり取りに会場が大いに沸きました。

和也くんの「仕事をするなら、シェアの大きいソフトが使えなければ意味がない。僕は仕事がしたいので、Windowsを使えるようにならなければならない」という明快な理論と、「日本の全盲ユーザーのために、僕自身も努力する」というアクティブな姿勢に共感の拍手が寄せられ、成毛さんも「彼とコンサルタント契約を結んでさまざまな課題を抽出し、必ず答えを出す」ときっぱり。同席した技術者の間中信一さんとナミねぇの4人で、対談後ガッチリ握手を交わしました。


連載の2回目で紹介した幾くん(吉田幾俊さん)と、マクロメディア社長の手嶋雅夫さんとの対談風景。「君のCG作品には、人を笑わせる、という根性が入っているよね」と手嶋さん


右から、間中真一さん、細田和也くん、成毛真さん、ナミねぇ。4人ががっちり握手を交わした歴史的ショット!?


TV会議システムも導入して、熱気あふれる山上会館の大会議場。8割近くが企業人で埋まった。

ところで、フォーラムの翌週の7月16日には、ナミねぇ&和也コンビはマイクロソフトの社員総会に招かれ、デモを行なってきました。その内容は、まず、和也くんが日常的に利用しているUNIXで音声装置を使ってWebにアクセスし、次に英語版Windowsの読み上げソフトでWordの作文が可能なところを見てもらいました。最後に現在日本で入手できる日本語読み上げソフトでは、残念ながらカーソルをバックしても音声装置が読み上げてくれないので、カーソル位置が分からず、文章が作れない、という実演をしました。

ほぼ全社員が集まった大ホールに、大きなため息の渦が巻き起こりました。和也くんのデモの後、ナミねぇからは「たくさんのchallengedがパソコンを使って社会参加をしようとしている」こと、「人間はみんな年とったらchallengedやから、明日の自分のためにも<使いたい人が誰でも使えるソフト>を開発してね!」という話をしました。その後の懇親会では、さまざまなセクションの担当社員の方が、「今日はデモはショックだった」、「自分たち自身で何とかせねば」と真剣に話しかけてくれました。

大きな企業ではセクションの枠を越えた議論が難しいという現実があるけれど、マイクロソフトは社長である成毛さん自らがフォーラムで発言し、社員総会で課題を明確にするという英断をされたことに、深い敬意を表したいと思います。

Windowsの一件とともに、

フォーラムの成果として特筆すべきなのは、金子郁容さん(慶應義塾大学大学院教授)の主宰するVCOM(*2)で、CJFの兄弟分として、オンラインのフォーラムCWF(Challenged Working Forum)が発足したことです。「インターネットのメーリングリスト(ML)を使って、フォーラムの主旨の達成に向けて日常的に意見の交換をしょう」という企画です。7月8日のCJF参加者のうち、すでに70数名が登録してくださっています。

コーディネイターを、プロップの機関誌『flanker』編集長である桜井龍一郎(ニックネームは”げんちゃん”)とナミねぇが務めるので、参加してみよう、と思われる方はcwf-recpt@vcom.or.jpに「参加希望」というメールを投げてください。このMLは氏名や職業などを明らかにしての意見交換がルールなので、よろしくねっ!

ちなみに、げんちゃんは労働省の在宅勤務制度適用第1号のchallengedで、ベットの上のコンピュータをISDNでつなぎ、大阪市内の会社の正社員として働くかたわら、ボランティアで機関誌の編集長もしている、ハンサムで真面目(本人談)な青年です。いずれこのコーナーで、ゆっくり紹介したいと思っています。

「Challenged Art展」やります!

さて、今号から連載が2ページになって、いろんなプロップ情報が書けるので嬉しいナミねぇなんやけど、最後に展覧会のお知らせをば!まだちょっと先のことですが、10月1日から1ヵ月間、プロップのグラフィックス・セミナー受講メンバーによる「Challenged Art展」を開催します。テーマは「Challenged」。え?そのままやんか!って?ははは、そのままですわ、怒らんとって(^^)

でも、「Challenged」っていうのは「神からチャレンジすべき課題(や才能)を与えられた人たち」という意味なので、これはすごく幅広いテーマやとナミねぇは思ってます。会場は、大阪ビジネスパーク(OBP)のツインタワー1階にある「デジタル・アート・スクエア」。松下電器産業(株)などのご協力で、デジタルハリウッドOSAKAの3周年記念アート展と合同で開催させていただきます。グラフィックのプロを目指すchallengedの作品展なので、自信作には「頒価」も掲示。温かくも厳しい眼差しで、ご鑑賞いただけれえばと思います。プロップのホームページでも見られるように準備中ですのでお楽しみに!

また、10月1日は、オープニング記念シンポジウムを会場に隣接するインターネットカフェ「RING RING]で開催する予定です。マクロメディアの手嶋雅夫代表取締役社長が基調講演に駆けつけてくださいます。皆さんのご来場をお待ちしてます!

(*1) デジタルメディアクリエーターを育成しているマルチメディアスクール。
http://www.dhw.co.jp/を参照のこと。

(*2) 新しい社会システムのモデル作りを目指す実証研究プロジェクト。
http://www.vcom.or.jp/を参照のこと。

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