internet@ASCII 1997年9月号より転載

インターネットとChallenged

インターネットは打ち出の小槌。重度障害者の社会進出を支援するナミねぇのパワフルエッセイ開始!

竹中ナミ(nami@prop.or.jp):コンピュータネットワークを利用することで障害を持つ人々の社会的自立を目指すNPO「プロップ・ステーション」を'92年4月に設立。会員から「ナミねぇ」と慕われる組織の大黒柱。しゃべりはバリバリの大阪弁!

vol.4 勉強も仕事も、インターネットでできる!

ナミねぇが”そのこと”に気づいたのは、野村総研との1年間のリモートワーキング実験で「スキルアップ・システムが必要」という課題が明確になった1996年の春でした。

通勤が困難なchallenged(障害を持つ人を表わす新しい米語。神からチャレンジすべき課題や能力を与えられた人、の意味)がコンピュータネットワークを活用して、在宅で仕事ができるようにしょう!という目標を達成するには、そのための勉強も(可能な限り)在宅でできるようにせなアカンのちゃうかな?だって「通勤が困難な状態」というのは通学も困難なんやから。「ねぇ、ねぇ、在宅で勉強して、在宅で就労情報つかんで、在宅で仕事できる、っていう一貫システムが必要やと思わへん?!」

ナミねぇがこういう言い方をしたとき、いつも次の瞬間には新しい企画がスタートしてる、というのがプロップで、その夏さっそく、ボランティア技術者の橋口孝志さんを講師に「在宅スキルアップセミナー」が開始されました。”受講希望者の募集も、審査も、課題の提出も、テストも、すべてインターネットで行なう”という新しいスタイルのセミナーは、大阪のプロップに通えない地域に住むchallengedにとって朗報ではあるけれど、”E-mailが使える”という条件が必要なだけに「ほんまの応募してくる人がいるんやろか?」という不安もありました。

でもとにかく、「思い立ったらイケイケ!」のプロップなので、インターネットのML(メーリングリスト)や、パソ通の掲示板に「募集要領」をポスト。すると、なんとまたたく間に、北は青森、南は長崎、まさにインターネットならではの全国各地から、十数人の応募がありました。「実験的なセミナーだから慎重に、小人数でいきましょう」という橋口さんの提案で、6人に絞って「第1期プロップ在宅スキルアップセミナー・データベースコースAccess編」(長いっ!)が、開始されたのは8月のことでした。

受講期間は半年。2ヶ月ごとに進度テストがあり、「もちろん落第もありまっせ」という厳しい内容に、ナミねぇは思わず(自分が言い出しっぺのくせに)震えました。だって何が嫌いって、一にピーマン、二に飛行機、三にテストで、四に饅頭(うそ)、という私ですもんね。でも、講師の橋口さんの指導方針に絶対の信頼を置いていたので、「このセミナーから、きっと仕事人が生まれる」という予感がふつふつとわいてきました。

橋口さんは、NTTを定年で退職されるまでシステム開発一筋。退職後の数年間はパソコンでデータベースの開発に取り組み、年金も受け取るようになってからは「もう、お金もうけはやめて、自分の技術を必要とする人たちに伝えよう」という思いから、プロップに参画して、早4年。前々号の「やまちゃん」をプロに育て上げたのも、橋口さんです。プロップで活動される間にお孫さんも誕生し、自ら名乗るニックネームが「JIJI」(じじ)。合唱団に所属され、毎年年末には、「第九」を歌い、コンピュータ作曲もこなすという幅広い趣味を持ちながら、セミナーに関しては「鬼の橋口」とナミねぇがこっそりあだ名をつけたくらい、厳しい(実はそれこそが温かいってことなんやけど)指導方針を貫いてくださってます。

橋口さんは、セミナー開始に際して、全国各地に住む受講生の自宅を訪問していただきました。「インターネットを使った顔を合わせないセミナーなので、受講生の性格、マシン環境、家庭状況、障害の様子などがわかっていないと的確なアドバイスができない」という橋口さんの積極的な提案があったからです。

半年間の「在宅スキルアップセミナー」は、予想以上の成果を上げました。現在、6名の第1期受講生のうち、1名はマイクロソフト社に在宅雇用されました。また、NTTのホームページ関係の仕事とIBMや製薬会社のデータベース開発を4名が在宅で行っています。彼らは在宅で仕事をするかたわら、第2期スキルアップセミナーのボランティア・サポーターとしても活躍中です。

ところで皆さんは、NTTの「ハローねっと・ぼらんてぃあ」というホームページをご覧になったことがありますか?もしまだでしたら、ぜひ一度アクセスしてみてください。掲載されているボランティア活動や福祉団体の情報収集、コンテンツ制作(の一部)が、前途の4名の仕事です。表紙デザインには、久保利恵さんという絵本作家を目指すプロップのchallengedメンバーが描いた水彩画が採用されています。また、それぞれのchallengedが、どんなふうに在宅で仕事をしているのかも、このホームページで具体的に紹介されています。

在宅セミナーから在宅ワークへ。インターネットはchallengedにとって、ますます、え〜相棒でっせ!

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