internet@ASCII 1997年8月号より転載

インターネットとChallenged

インターネットは打ち出の小槌。重度障害者の社会進出を支援するナミねぇのパワフルエッセイ開始!

竹中ナミ(nami@prop.or.jp):コンピュータネットワークを利用することで障害を持つ人々の社会的自立を目指すNPO「プロップ・ステーション」を'92年4月に設立。会員から「ナミねぇ」と慕われる組織の大黒柱。しゃべりはバリバリの大阪弁!

vol.3 Windows95を、誰もが使えるOSに!

今日は「ビッグな企業にはビッグな社会的責任があり、その企業から支援を受けるNPOにも、同様の社会的責任がある」というお話です。

プロップ・ステーションはNEC、IBM、富士通、松下電器、マイクロソフト、ジャストシステム、マクロメディア、アドビシステムズ、SRA、NTTなどなど、多数のハード、ソフト、通信関連企業のご支援でchallengedを対象としたコンピュータセミナーを開催しています。で、支援してくださる企業に対してプロップがお返しできる「企業にとってのメリット」はなんやろう、と考えてみると、それは「企業が社会的責任を果たそうとする意志に応える姿勢」と「その企業と共に社会的責任を果たしていく意志」をプロップが持つ、ということじゃないかと思っています。

じゃあ、「企業の社会的責任」って何かというと、その企業の業務内容や開発する製品が、「企業としての営利を求めながらも、公共の福祉に資すること」というふうにナミねぇは考えます。単純な言い方をすると「人間を幸せにできるかどうか」を常に考えながら企業経営していただきたいな、という願いです。

ビッグな企業であるマイクロソフトのWindows95が、音声装置を使ってコンピュータに向かう全盲のchallengedにとって「使用不能」であるということは、そういう意味でナミねぇにとって、すごくショックな出来事でした。全盲のchallengedたちは、MS-DOSではちゃんと使いこなせていたのに、GUIになったとたん、アイコンが見えないためにつかえなくなったんです。コンピュータの進歩によって「できていたことができなくなる」人が生まれるなんて想像もしませんでした。でもいろいろ調べてみるとアメリカではWindows95の音声化が進んでいて、最大の問題は「日本語」の部分だということが分かりました。

マイクロソフトはプロップの法人会員でもあるので、ナミねぇは早急、成毛社長にお会いし、「どないかせなあきませんね」という話をしました。成毛さんも「マイクロソフトにとって重大な問題なので、ナミねぇ、解決策を一緒に考えてよ」ということになりました。

このコラムは字数が限られているので今回は経過を省いて結論を書くけど、今、プロップとマイクロソフトはスクラムを組んでこの問題に取り組んでます。プロップの全盲メンバーで「英語バージョンのWindows95」を「英語バージョンの全盲者向け音声マニュアル」*1で勉強して使っている、細田和也くんという大学生がマイクロソフトとコンサルタント契約を結び、マイクロソフトの技術者たちと力を合わせて、全盲の人がWindows95を使うための課題の抽出と問題解決に向けた作業を開始してるんです。

ナミねぇが和也くんをマイクロソフトに推薦したのは、「仕事に使うなら、シェアの大きいソフトが使えないと意味がない」「使えないからって、あきらめたくない」という、きっぱりしたポリシーを持ってコンピュータに向かっていたからです。C言語やUNIXを使いこなし、自分で使うマシンは自力で組み立てるという和也くんは、日本全国の全盲challengedユーザーのために「努力を惜しまない」と語っています。前途の「音声マニュアル」の話者も全盲のchallenged技術者だそうです。challengedによるchallengedのサポートが日本で始められるということは、プロップにとってもなによりの喜びです。

7月8日(火)、プロップは東京大学山上会館で第3回Challenged Japan Forumを開催しますが、和也くんと成毛さんには「challengedとWindows」という対談をしてもらおうと思ってます「フォーラムの詳細は、http://www.prop.or.jp/を見てくださいね)。また、7月16日に開催されるマイクロソフトの社員総会では、和也くんのデモを社員の皆さんに見ていただき、「使いたいと思うすべての人が使えるソフトウェアを開発することを、喜びにしてほしい」と、マイクロソフト社員の皆さんにお話ししょうと考えています。

高齢社会はchallenged社会です。「challengedユーザーを征するものこそ、次世代を担う企業になれる」とナミねぇは、確信してます。

*1 米Henter-Joyce社から発売されている画面読みソフト「JAWS for Windows」(http://www.hj.com/を参照のこと)に付属する音声マニュアル。カセットテープ7本に収録されている。

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