1996年7月14日発行 「つながり」の大研究 ─電子ネットワーカーたちの阪神淡路大震災より転載

第5章 電子ネットワークは役に立ったか

(金子郁容VCOM編集チーム編著 NHK出版)

本章では、「災害とネットワーク」会議室のメインテーマである、電子ネットワークは震災時に役に立ったかどうかということについて考えていく。
ネットワークは役に立ったという主張がなされるときにしばしば例として引かれるのが安否確認である。実際はどうであったのだろうか、まずは、ある草の根BBSの実際のログで電子ネットワークでの安否確認の実際を見てみよう。

うめ吉さん、生きていて良かった

プロップ・ステーションという「challengedを納税者に」を合言葉にするNPO(非営利組織)がある。竹中ナミが代表を務めるこの団体では、アメリカでの最近の言い方を採用して、「障害者」といわずに「challenged(挑戦を引き受ける人の意)」
とよんでいる。このNPOが会員の情報交換と交流のために運営している草の根BBSがプロップ・ネットである。全員の半数ほどがchallengedで、電動車椅子を使用するなど重度の人がほとんどである。また、全員の多くは阪神地区に住んでいたので多かれ少なかれ被災した。
プロップ・ネットの情報流通量は発災直後すこし減ったが、すぐふだんと同じレベルにもどったという。ほかのネットワークでもそうであったように、安否確認情報に関していえば、プロップ・ネットでのピークははじめの一週間だったという。そして、その一週間が終わるころには、安否が気づかわれていたメンバーのほとんどの消息がプロップ・ネットによって確認されたという。
竹中は「災害とネットワーク」会議室に5回に分けて行った(発言#97〜110)で、プロップ・ネットのログ(交信記録)の一部を公開している。そのなかで安否に関する発言のいくつかを拾って紹介しよう。ここでは竹中によって、プロップの役員である鈴木と坂上(うめ吉)が実名となっている以外は人名はイニシャルで紹介されており、必要に応じて竹中による簡単な説明がついている。

95/01/17 06:35:38 PROP#1(●) すごい地震でしたね〜
 鈴木…大阪市北区プロップ・ウイング所長、1月17日ウイングで仮眠中

こんなに激しい地震は、初めての体験のような。ホストマシンは、無事のようですが、UNIXが心配です。棚の上の方に置いて有るのですよね。わたくしは、眼鏡を壊してしまった。慌てて飛び起きたときに踏んでしまったのだろうか(悲しい…・…)。皆さん、大丈夫だったでしょうか。では、では。

95/01/17 09:37:36 PROP#2 大丈夫ですか? 皆さん
 HA…challenged 岡山県、男、療護施設入所中

岡山でもかなりのゆれを感じました。午前9時過ぎに「日本高速通信」の回線を使ってアクセスしてみましたが、つながりませんでした。設定を変えてNTTを通すとすぐに接続できました。Gさん、Uさんなどの安否が気遣われます。TVの映像を見ているととても心配です。どうか無事でいてください!

95/01/18 02:00:31 PROP#3 昨日は、大変な1日となりましたね
 MT…京都市、男

いつも、ネットワークに来られてる方々が昨日から今日にかけてみえませんが、ご無事でしょうか? ひとごとではないので、何かお役にたてれるものならできる範囲で協力したいと思います。ただ、大阪や西宮へはきょうも交通は遮断されたままなので手を出す事ができないため、余計なにもできない自分に歯がゆさを感じてます。みなさん、ご無事でいらしゃいますように。

95/01/20 00:12:06 PROP#4 地震お見舞い申し上げます
 TA…challenged 松江市、男

地震被災者の皆様にお見舞い申し上げます。ニュースで大きな地震が神戸、淡路島を中心として発生し、周辺に大きな被害をもたらした事を知りました。真っ先に気になったのは、プロップ関係者がその周辺に多いことで、無事であるのか、どうか、心配になりました。「うめ吉」さんに電話を掛けて、取り敢えずのところは無事である事を聞き、少し安心した、といったところです。何か私に出来る事があれば、なんなりと仰せ付け下さい。水、食料、毛布、その他何でも構いませんから是非お申しつけ下さい。連絡お待ち致しております。

95/01/20 13:30:19 PROP#5 Re:やっと通じた!!!
 坂上(うめ吉)…challenged 宝塚市、男、プロップ・ネットシステム運営者
>どうも、SSです。

安否が分かってほっとしてます。阪急宝塚駅、宝塚南口駅で電ヤが脱線したときいて心配でした。中筋から六甲山東側を見ると、余震の度に崖崩れで砂ぼこりが立つのが見られます。気を付けて下さいね。

95/01/20 13:30:23 PROP#6 Re:Aさん 無事
 坂上(うめ吉)

Aさんの消息が分かってほっとしてます。あの辺りで一番心配でした。

95/01/20 14:16:47 PROP#7 うめ吉さん、生きていて良かった
 YU…challenged 東京都、男

うめ吉さん、ご無事で何よりです。生きていて良かった。東京からは、17日、18日と接続不可でしたので、心配してました。死亡者リスト見たりして・…でも、家屋半壊のご様子で、お見舞い申し上げます。

アト、KSさんは、ご無事なのでしょうか。TSさんからのメッセージを読むと、電話はかえってイケナイかなとも思いましたが、06範囲なので、かけてみたところ、コールはするのですが、電話にお出になりません。心配です。年賀状に「教壇に立ちたい」「寒さが、年々身体にこたえる」とありました。消息が解りましたら、お教えてください。

95/01/20 21:30:26 PROP#8 生きてまーす
 KM…西宮市、男

やっとネットにはいる余裕が出てきました。17日以降は読めていませんので他の方が気になりますが。とりあえず、家は壊れたけれど家族全員無事で頑張っています。生きてまーす。

95/01/21 11:09:05 PROP#9 Re:Re: Aさん 無事
 坂上(うめ吉)

こちらからもAさんに連絡がつきました。ガス、水道が滞っている状況で情報が錯綜しているようです。元気そうでありましたが、話の内容が突然かわったりしていて、精神的にかなり疲れているようでした。

95/01/21 11:09:07 PROP#10 Re:うめ吉さん、生きていて良かった
 坂上(うめ吉)

YUさん、どもです。

>アト、KSさんは、ご無事なのでしょうか。

宝塚市障害者情報クラブ

KS(会員――尼崎市、プロップ・ステーション、大坂頸損連)
無事、風邪のため尼崎市内の病院に入院中
間接的に確認<S氏@福岡市(重度四肢麻痺者の就労問題研究会)
95/01/21 12:20:19 PROP#11 Re:Re: Aさん 無事
 KT…challenged 京都市、男
>新聞によると、東灘区魚堺」海上自衛隊阪神基地
>隊岸壁の護衛鑑「とかち」、同区青木フェリー岸
>壁の給水鑑で24時間体制で給水してるそうです。

Rさん ありがとう!! 今日21日、Aさんに連絡しました。喜んでおられました。「(マンション)管理人さんにも言う」と言っておられました。学校の給水所は時間も決められて、量も少しとのこと。今の僕には情報提供しかできない。

>元気そうでありましたが、話の内容が突然かわったりしていて、精神的にかな
>り疲れているようでした。 僕も先日の時はそう感じました。しかし、今日は元気そうに感じました。
95/01/21 17:31:05 PROP#12 Re:生きてまーす
 RS

無事でしたか。よかった。

95/01/21 14:03:13 PROP#13 Sさんも良かった
 YU
>アト、KSさんは、ご無事なのでしょうか。
>宝塚市障害者情報クラブ
>KSさん(会員――尼崎市、プロップ・ステーション、大坂頸損連)
>無事、風邪のため尼崎市内の病院に入院中
>間接的に確認<S氏@福岡市(重度四肢麻痺者の就労問題研究会)

そうですか。KSさんもご無事でしたか。良かった、良かった。 入院先などは、Sさんがご存じなのでしょうか。電話してみます。

竹中は個人メールで、震災を経ての「まとめ」を送ってくれたのでその一部を紹介する。

竹中ナミ個人メール

プロップ・ステーションは、発祥の地が兵庫県西宮市であったため、この度の阪神淡路大震災においては、スタッフ、会員、支援者やその家族の多くが罹災しました。私事ですが、神戸市東灘区にある私の実家も倒壊全焼し、高齢の両親が焼け出され、震災1年を経た現在、更地にやっと基礎が打てたところです。
このような状況の中で、私の感じたことを述べてみたいと思います。
プロップ・ステーションは、障害を持つ人達の自立をハイテクを活用して推進しようと活動を続けて来ましたが、今回の震災では、電源と電話回線が切断されると、命を守るための情報すら満足に得られなくなる、という「ハイテク社会の落とし穴」を、まざまざと見せつけられました。
「溢れるほどの情報に囲まれて」いたはずの私達が、生命の危険にさらされた時、SOSすら受発信出来ないことが分かりました。
特に今回の震災では、高齢で障害を持たれた方が多数亡くなられましたが、これは、ますます高齢化が進み、障害を持つ人達が増えて行く時代を迎えるに当たって、あまりにも悲しいことだと思います。

目が見えない人、見えにくい人は、どのように危険から身を守れば良いのでしょう。
テレビのニュースも、聴こえない人、聴こえにくい人には単に不安を増幅させるだけだったと言います。
言葉が出ない人、喋りにくい人は、どうやって助けを求めれば良いのでしょう。
自力で動けない人、動きにくい人は、どうやって避難すれば良いのでしょう。
避難経路を塞ぐ物すらまたげなければ、どうやって逃げれば良いのでしょう。
避難後の給水車に、バケツを持って並ぶ事が出来ない人や給水車の到来すら知ることが出来ない人もあったでしょう。

罹災障害者で、組織やサークルに属している人達の安否は、かなり早い時期からプロップ・ネットをはじめ、草の根のパソコン通信などで情報が流されました。特に自立活動をしていた人達は強固なネットワークを持っているので、支援ボランティアや関係団体の人達による救出活動が即時に開始されたようです。しかしこれは、日頃から「自分達を護るのは自分達しかない」と感じ続けていた障害を持つ人達が自ら構築してきたネットワークであり、決して社会にお膳立てされたものではなかった、ということに日常的な草の根活動の重要性を強く感じずにいられません。
プロップ・ステーションは草の根のパソコン通信網「プロップ・ネット」を運営し、スタッフ・会員の連絡・交流・情報交換に活用してきました。残念ながら、今回のような危機的状況においての即効性はパソコン通信には無い事を痛感しましたが、震災の翌日からは、罹災された方の安否を含め、様々な情報発信と収集にパソコン通信が大きな威力を発揮しました。私は今、ぜひネットワークに関心を持つ皆さんやハイテク関連の技術者の皆さんと共に、「生命を護る情報網と、人と人を繋ぐネットワーク」の構築について語り合い、知恵を出し合い、実現に向けての行動を開始して行かなければと思っています。

● ここでは、本書のフォーマットではなく、プロップ・ネットに現われたとおりの発言のタイトル、発言者名、発言日時を記す。ただしPROP#1などの発言番号はあとで参照しやすいようにふられたここだけの通し番号である。

ページの先頭へ戻る