ASAhIパソコン 1996年6月15日号より転載

慶応大学と野村総研が障害者在宅勤務の実験

中和 正彦

前号本欄で、事故で車イス生活になった商社マンがネットワークによる在宅勤務で活躍していることを紹介したが、このような例はまだ珍しい。日本はアメリカなどに比べると、在宅勤務による障害者の雇用確保・拡大の動きで大きく遅れている。こうしたなかで昨年、慶応大学と野村総研が「サイバー社会基盤研究推進センター(CCCI)という研究組織を発足させ、インターネットを用いた障害者の在宅就労の実験を始めた。「障害者リモートワーキング・プロジェクト」。その成果は近く、CCCIのホームページで最初の半年間の成果が公表される。

障害者が会社に出勤するためには、交通機関やオフィス環境などの整備が必要だが、それはコストなどのため一朝一夕には進まない。その点、在宅勤務は本人の家に仕事に必要な設備を整えるだけで済む。通勤環境やオフィス環境を理由に就労の機会を閉ざされていた障害者にとって、そうした壁が低くなるわけだ。

だが、在宅勤務はまだ方法が確立しておらず、障害者の在宅勤務の可能性などほとんど検討だにされてこなかった。今回のプロジェクトは在宅勤務の可能性と課題、障害者特有の問題を研究するために発足したが、「研究に参加する障害者に具体的にどんな仕事をやってもらったらいいのか、正直いって最初は見当がつかなかった」(プロジェクトを担当した野村総研・西埜覚氏)という。

CCCIはインターネットを使った社会実験の場。そこで、インターネットを使える障害者に、インターネットさえ使えればできる仕事をやってもらうことに決まった。具体的には、CCCIの他のプロジェクトが必要としているウェブ情報を検索し、そのレポートを提出する仕事だ。

昨年12月に開始以来、半年で確認された障害者在宅勤務への課題は、次のようなことだったという。第一に、日本の通信費が高すぎる。第二に、通信コストや正社員契約の観点から、企業としては当人より付加価値の高い仕事ができるように成長してもらわなければならない。その時、適切な仕事を用意できるのか、そのための教育をどう行うか。第三に、技術的なトラブルが生じたときのサポート態勢をどうするのか。

では、研究に参加した障害者当人についてはどうだったのか。西埜氏は「当人はいろいろなことに興味を持ち、仕事のやり方を自分で工夫していく力のある人で、なんら問題はなかった」と評している。つまり在宅勤務の課題は、コストや技術、企業の対応能力であって、障害の有無はほとんど問題にならなかったのだ。

「企業が個々の障害者の事情に合わせた対応をするのは難しい。企業と障害者の間に立って、障害に合わせた能力開発や就労のサポートをする支援組織が必要だと痛感しました」と西埜氏は結んだ。

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