「ボランティア新時代」の旗手たち(産経新聞生活情報センター編著)より転載

神津カンナのいきいき対談

ボランティア新時代を開く

ゲスト・ 竹中ナミ(たけなかなみ)

プロップ・ステーション代表。郵政省の「高齢者・身体障害者の社会参加支援のための情報通信の在り方に関する調査研究会」委員。中学時代から演劇に熱中し関西が本拠の劇団研究生となるが、漫才師向きといわれ退団。神戸市生まれ。

◆プロップとは支え合うという意味

神津

プロップステーションが出来た経緯からお聞きしたいんですが。

竹中

私自身に重症心身障害者の娘がいまして、障害を持つ人たちの日常生活に大きな関心があったんです。そこでそういう方たちとお付き合いしてるうちに、それが毎日の生活の中心になってしまったというわけです。世間がよく障害者と分けるけれど、そういう人種はどこにもないんです。どこか不自由を被っている人たちがいるにすぎない。あるいは年齢が高くなられたにすぎないんですね。

神津

そうなんですよね。

竹中

しかし日本の福祉のあり方は、障害者手帳でその方たちを分けて、ランク付けして、なおかつそのランクに合わせて年金を差し上げたり、あるいは施設に、病院にお入りくださいといった区別をするところから始まっているんです。

でも私は、一人ひとりがむしろ街の中で切磋琢磨できるような状況をつくることのほうが、もっと大事なんじゃないか、それが出来る人たちだと非常に感じたので、それをテーマに活動してみたいなと思ってプロップ・ステーションをつくったんです。

それで西宮で、介助者を派遣する「メインストリーム協会」という組織をつくりました。しかし、支える側と支えられる側が分かれてしまう状況そのものが、何か変やな、という感じがして。障害を持つ人たちも支える側にまわれる、それは納税という形での経済循環の中でもそうですし、人間同士としても支え合うことができるという、そういうものを活動の目標としてやっていきたいなと思ったわけです。プロップというのは「支え合う」という意味なんです。

神津

始められてからどのくらいになりますか。

竹中

1991年の5月に発足しまして、まだわずかしか時間が経っていませんが、社会の多くの方々がプロップの活動に関心を持ってくださっています。

いろいろな方とお話ししていると、やはりそういう方向になっていくっことが望ましいという考えが相当広まってきたと感じますね。
だから、やってよかったと最近思うようになりました。

◆多くの障害者がコンピュータをツールに社会参加を望んでいる

神津

コンピュータ・ネットワークを入れられたのはどうしてですか?

竹中

私自身は完全文化系人間なので、機械は苦手という意識しかなかたんです。ところが、プロップ・ステーションをつくるにあたって、重度とか重症とか言われる障害を持つ全国の方々にアンケートをさせていただいたんです。就労の意識とか社会参加の意識といった質問ほかに、自分たちが社会に参加していくときに、何があなたのツールになりますかといった質問をさせていただいたんですが、回答をいただいた方の約8割が「コンピュータ」というお返事だったんです。なおかつ、ベッドの上で寝たきりの状態のような方が、実は独学で勉強していると。にもかかわらず、きちんと系統だったことを習う場所がないし、習ったことを認めてくれる環境もない。認めてもらったとしても、それを活かす職場もない。そういった声が高い率で返ってきたんです。みなさんがこれだけ高い意欲を持っていらっしゃるということに、すごいカルチャーショックを受けました。そこで、そのコンピュータというものを、ひとつの活動の柱にしてみようと考えたんです。

竹中

三年間やってきて、コンピュータは打ち出の小槌ぐらいの武器だなということを非常に実感しています。

◆阪神大震災でコンピュータ通信が威力を発揮

神津

それが今年の大震災で、ネットワークが一瞬にしてアウトという、ハイテクの落とし穴がありましたね。

竹中

やはり大きなショックでした。ああいう状況を想定していなかった自分たちに対して危機感を持ちましたし、皆さんの安否が確認できるまで悶々としていました。しかし、いざ電源と電話線がつながったときには、非常に素早い安否確認ができました。

とくにコンピュータの通信というのは、電話のように相手がその場にいなくてもできるわけですよね。通信がつながったときに「私は無事です」と書いておけば、いろんな人がパソコン通信のネットワークに入ってきたときに、そこに残された一行で「この人無事や」というのが、すべての方に通じるわけです。

神津

ものすごい威力を発揮しましたね。障害者の方のネットワークだけじゃなくて、どこどこの銭湯が開いてるとか、一般的なネットワークの中にも細かい情報のやりとりがあったそうですね。

竹中

単に何丁目のどこどこというだけでなく、器用な方は地図も入れてしまうわけです。そういうわかりやすい形で情報を得られたのは、とても有効なことだったと思います。

◆「障害者」という一つの言葉で語るのは大きな間違い

神津

ところで、震災の中で安否の状況をつかむのは相当大変だったと思いますが、マスコミに出てこない情報はありますか。

竹中

障害者というと、普通は車いすに乗っているとか、白い杖をついているイメージが強いんですが、実はいま日本で障害者手帳をもらっている方の6割以上は高齢で障害を持たれている方なんです。今回の震災でも障害者の被害が大きかったといわれますが、お亡くなりになられた方の大半がそういう方なんです。だからひとくくりに障害者はどうだったと結論づけしてしまっては、大きな間違いが起きますね。

いま、障害を持っている方々の自立組織の運動という大きな流れが日本全国にありまして、ネットワーク化されています。そういう方たちは、自分を守るのは自分たちしかいないという思いが非常に強いですから、自分たちでつくった組織力を持っていたんです。こういう緊急時にそれが核となって、行政でもボランティアの組織でもできなかった安否の確認とか救出作戦をすぐにとることができたんです。それを見ていると、亡くなられた高齢の方、あるいは家庭介護をされていた方々のネットワークがなかったというのは、厳然と明暗を分けたような気がします。

ですから障害を持つ方たちが自分自身で作り上げたネットワークがいかに強固であったか、その点から私たちも学ばねばいけないということで、これが次の課題かなとも思っています。
それから、実は無事だった障害者にも問題が起こったんです。

神津

それはどういう?

竹中

自立運動をしていた障害者の方で、先ほど言ったネットワークをきちんと持っていた方々なんですが、作業所や住んでいたところが倒壊して、あなたの命を守るためだからと強制的に施設に戻されるということがあったんです。せっかく自分の力で地域での活動を始めたのに、震災のために施設に戻らざるをえない。そこで行政は、また地域に戻れるような施策をとってくれるのかというと、その方向もはっきり出ていないわけです。

震災のときには、行政側がそのネットワークを頼って相談したり、ボランティアの派遣を受けたりしていたのですから、そのネットワークの重要性を自治体はもっと知らなければいけないんですよ。ただ単に病院収容型とか施設収容型に戻すのでは、いったい何を学んだのかと言いたくなります。やはり、保護の必要な人と自立したいと思っている人に対する施策を、それぞれ別個に明確にしなければいけないと思いますね。

◆在宅介護の人たちのネットワークづくりを

神津

自宅で介護されているような高齢者の方たちのネットワークづくりは、まだ進んでいないんですね。

竹中

全然進んでいないんじゃないでしょうか。震災が起きたとき、民生委員もヘルパーも戸別訪問できる状態ではなくなっていて、物資の仕分けに追われてしまいそれが余計にそういう方たちの被害を大きくしてしまったんです。

仮設住宅にも問題化してきています。交通の不便なところにある仮設住宅に障害を持った人や高齢者など社会的弱者を優先的に入れて優先というとカッコいいんですが、そんなところではコミュニティーもつくれないわけです。実際、亡くなられて1ヶ月も気がつかなかったという悲しむべき状況が起きています。いかに地域で、そういう介護の必要な人、保護する必要のある人を守る体制ができていなかったかが如実に表れてしまったわけですね。「高齢者=自分自身の明日」ですから、そのあたりの見直しを、ネットワークを持っているわれわれが提言して行かなければと思います。

神津

基本は地域の中でネットワークをつくることですね。そして、それが横につながっていかないと、いざというときに機能しないでしょうし、また中央にもつなげていくことが必要ですね。まだまだ、そのへんが弱い。

竹中

そうなんです。しかも日本では家族介護が当たり前のように言われていますから、家族が守れない状況になったときにはお手上げなんです。したがって、まず町内のネットワーク、それらを横につないでいって、最終的には全国的なトータル・ネットワークといった形のきちんとしたシステムをつくっていく必要があるんです。高齢化社会といわれている日本にとって、今回の震災はものすごく大きな問題を提示したなという気がしますね。

◆行政に対して自分たちがどう声を上げていくか

神津

たしかに日本では在宅介護を奨励していますが、いざ支援センターとか訪問介護を頼もうと思って区役所などの窓口で聞いても、現実には何もうまく使えないんですね。それは、病院の許可をもらってくださいとか病院に行けば、また違うことを言われるし・・・。在宅で一生懸命介護しようとしても、それを支援する社会のいろいろなシステムがまだまだ機能していませんね。

竹中

在宅福祉という言葉はとてもきれいなんですが、施設福祉よりも、もっと大変なんです。けれど日本は、その大変なほうを選択しようとしているわけですね。それに高齢者も障害者も、できれば自分の地域で生活したいと望んでいらっしゃるので流れとして在宅福祉になっていかざるをえないんです。ただ、国の方針がきちんと確立されていませんから、けっきょく家族の中の誰かが大きな負担を強いられてしまうことになるんです。そういう方は本当に綱渡りの状態でやっていると思いますよ。

神津

そうした状況の中で、竹中さんとして行政に望むこと、また解決していかなければならない問題としてどんなことが挙げられますか。

竹中

行政に望むといいますか、行政に対して自分たちがどう声を上げるかですね。まず、日本人の間にある家族が介護すべきという美意識を捨てること、そして家族だけで介護するのは無理だということを、もっと言っていかないといけない。そのときに経済的な問題とか体力的な問題とか、なぜ困難かという点を1つずつ挙げて、それから私たちプロップのような民間の力を集めるんです。別に声が大きければいいというものではありませんが、やはりデータをきちんと集約して、一般の方にも理解していただくように外に発信することが必要なんですね。それはまた、行政に提言するための活動でもあるわけです。

在宅福祉という行政の方向性だけが先に進んでしまって、実際に介護を担っている方の声が少しも上がってこないんです。そんな、まだ中途半端ともいえる時期に今回の震災が起こってしまったので、この震災を契機にきちんと推進していかないと、亡くなられた多くの方に報いることができないんじゃないかと思います。

◆障害者が使いやすい機器を求めて、技術者との意見交換も

神津

障害を持っている方の自立は、具体的にどうやっていらっしゃるんですか。

竹中

プロップはコンピューターをテーマに、いかにも科学的なことをやっているように見えますが、実はそうではなくて、コミュニケーションをいかに密接にするかという、その手段としてのコンピューターなんです。できるだけひとりぼっちにならないために、ぜひコンピューターを使っていただきたい。それにプラス・アルファ、社会参加とうアクティブな面ですね。お友だちができただけで満足しているようでは、状況はあまり変わらないと思います。意見交換するなかで、次にその人自身がアクションを起こすエネルギーを持ってほしいなという気がします。そのエネルギーを、たとえば市民活動に参加して多くの人とネットワークをつくる動きにつなげていってほしいんですね。

それからプロップの大きなテーマである、仕事をするということです。つまり、いままで福祉の対象といわれていた人たちが、税金を納められる存在になっていく。それは社会を構成する普通の一員になるということです。ただ、コンピューターは操作が難しいから情報弱者と言われるような人にも手軽に使える形に変化していけるかが問題ですね。一方、そうはいっても仕事として、自分が生きていくための媒体としては、コンピューターは難しいほうがいいかもしれな。難しいことができるから仕事になるわけですから。

竹中

実は、そういうことからコンピューターの開発をしていらしゃる技術者のグループと一緒に、開発側とユーザー側が同じテーブルで1つのテーマを話し合う勉強会を昨年から始めたんです。

これは非常に大きな反響を呼びました。とくに、画面の絵を選んで操作する最近のパソコンが、音声装置で使えないため、全盲のかたが、仕事を失いつつあるということがわかったとき、自分たちは便利なものを世に出しているつもりなのに、逆に不便に感じる人がいたり、それによって仕事をなくした人がいるなんて、とてもショックだと。私も、このように立場の違う人がお互いに率直な意見を交換する場がいままでなかったことを思うと、もっといろいろな場面でそういう機会をつくっていくことの必要性を感じました。

◆障害者も納税者になれるようなシステムに変えたい

神津

いまいちばんやりになりたいことは何ですか。

竹中

「障害者を納税者にできる日本」めざして活動したい。日本のシステムをそういうふうに完全に切り替えたいんです。1人でも多くの人が納税者になって、本当に保護の必要な人には手厚い援助をするというシステムですね。高齢化が進んで、保護を受けなければならない人がどんどん増えてくるとしたら、これは障害者だけの問題でなく企業の定年制まで切り込んでいくことになってしまいます。私は障害者をテーマにしていますが、国全体がそういう発想に変わっていくことが必要だと思います。

こうした私の意見に賛同してくださる方が、やはりいるわけです。障害者の人はかばってあげなければならないと思っていたら、自分では直接言葉にできなかったけど、同感だと。高齢化社会を前にして自分の問題だと気づけば、もっと多くの人が考えを変えてくれると思います。こういうテーマを掲げることで、それに向けてプロップは一歩踏み出したことになりますね。反面、これだけ大きなテーマですから、ダメ

神津

でも、それは大切なことですね。私たちは知らない間に既成概念にとらわれていて、その枠をちょっとはずせば、違った解答が見いだせるのに、それができない。いろいろな意味での既成概念を少しずつはずしていかないと、問題は何も解決しませんね。

竹中

既成概念を取り払うと、精神的に自由になれて、肩の力も抜けて楽になれるんですが、すべての人がそうできるわけではないですからね。私のところに相談に来られる方にも、できるだけ力を抜いてというお話しをするんですが、なかなか難しいようですね。

◆障害者を分ける形からは真の福祉は生まれてこない

神津

そのほか、竹中さんが理想とされているコミュニティーはどんなものですか。

竹中

ノーマライゼーションとよく言いますけど、究極のノーマライゼーションとは、障害を持つ人の発生率と同じ割合だけ障害者が学校にも会社にも地域にもいることだと私は思うんです。残念ながら、こういう形のコミュニティーは、まだ世界中のどこにも実現していないんです。けれど、そうなって初めて、障害を持つ人と持たない人が普通の付き合いができるんですね。ですから、障害を持つとか持たないという線で分けてしまう施策からは真の福祉は生まれてこないと思います。ただ、これも日本のシステムを変えるということですから、なかなか・・・・・。

神津

確かに私たちは普段の生活の中で、障害を持った方と接することは少ないですね。

竹中

日本では医学が進んでいますから、障害があるとわかると、すぐ分けてしまうんです。医学が進めば進むほど、その傾向が強くなってきますね。本当は、その医学が日常生活の中で障害者をケアしていく形にならないといけないんです。それが在宅福祉の本当のあり方なんですが、日本の場合、家族に任せるというのが在宅福祉になっているんです。

神津

日本のシステムは、ちょっとでも異質なものは分けようという傾向がありますね。その点、アメリカなどは異質なものを受け入れることに関しては、心が広いというか・・・。外国人も障害を持っている人も一緒に学んだりしていますね。

竹中

私が強く思うのは、自分たちで変えようという意識を持たなければいけないということです。国の動きを待つのではなく、自分たちの問題は自分たちで解決する努力をすることです。そのためには、同じ問題を抱えた人たちが意見を出し合える土壌をつくっていくことから始めることが大切ですね。

神津

変えていくためには、世の中は加速度的に動いていますから、行政が何かしてくれるのを待っているだけでは時代遅れになってしまいます。やはり私たちの力で動かしていくという気持ちを持つことが大事ですね。

竹中

これからもご支援のほど、お願いいたします。

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