労基旬報 1996年1月15日号より転載

障害者の在宅勤務をサポート
支援団体「プロップ・ステーション」

パソコンを武器に通信ネットの運営やセミナー

コンピュータとネットワークを活用して障害者の自立、就労を支援してきた民間ボランティア団体プロップ・ステーション(大阪市)は、インターネットのホームページ作成の代行業務を本格的にスタートさせた。ネット上で仕事を行うため、これまで外で働くことが困難だった在宅の重度障害者に就労の機械を与える試みとして注目されている。

支えられる側から支える側へ

プロップ・ステーションは91年に設立以来、コンピュータを活用して障害者の自立と社会参加、とくに就労促進を支援している非営利団(NPO)。会員は現在全国に約250人おり、その3分の1は肢体、視力、聴覚など何らかの障害を持っている。「プロップ」とは「支柱」という意味があり、障害者自身がみんなの支え役になろうという願いが込められている。

独自のパソコン通信ネット「プロップ・ネット」の運営、機関誌「フランカー」の発行(季刊)、コンピュータ・セミナーの開催、各種勉強会などユニークな活動を続けてきた。「プロップ・ネット」には障害者だけでなく、企業人もアクセス。会員が相互に情報交換したり、求人・求職情報を流したり、セミナーの講師との質疑応答の場として活用している。

この組織をまとめてきたのは竹中ナミ代表。長女が生まれつき重度の重複障害児だったことがきっかけとなり、以来、障害者とともに20年以上活動を続けてきた。視覚障害者のガイドヘルプ、手話通訳、肢体不自由施設での介護、おもちゃライブラリーなど様々なボランティア活動を経て、アテンデント(有料介助者)を紹介する福祉団体「メインストリーム協会」を設立、その後プロップ・ステーション代表となる。竹中さんは、障害者も健常者も嫌がる「障害者」という言葉を使わず、新しい米語をヒントに「チャレンジド (challenged)」と呼ぶ。「プロップのキャッチフレーズは『チャレンジドを納税者にできる日本』。日本では障害者は福祉の対象だが、適切なサポートさえあれば能力を発揮して稼げる。仕事をして税金を払い、誇りを持って『支える側』になりたいし、すべての不にゃの人たちと連携しながらそういう社会にしたい」と話す。

そのための大きな武器がコンピュータだ。団体発足を機に、全国の重度障害者1300人に就労意識調査を行ったところ、就労意欲は高く、その8割が「そのためのツールとしてコンピュータに大きな期待感を抱いている」ことがわかった。ただ、重度障害者のためのコンピュータ養成機関も、自分の実力を評価する手だてがない。たとえ技術を身につけたとしても、生かせる仕事がなかった。そこで、こうした人たちのためにコンピュータをツールとして使えるための活動に取り組み始めた。

企業に対して協力を呼びかけたところ、多くの企業が賛同、機材やセミナー・ルームの提供を申し出てくれた。セミナーの講師も企業人がボランティアで引き受けている。企業だけでなく、大学の研究者も活動をバックアップ、支援の輪は今も広がりつつある。

セミナーにはこれまで100名以上が参加した。工業高校の教務管理データベースや貿易会社の在庫管理システムを開発できるまで実力をつけた者もいる。セミナーはただ技術を教える場ではない。障害者は企業人に接することで働くことの厳しさを実感し、講師は障害者と実際に接することで多くのことを学ぶ。最近では障害者だけではなく、高齢者も参加するようになってきた。また企業に支援してもらうだけでなく、障害者が機器等のモニタリングをして、もっと使いやすくなるよう提案、商品開発にも役立っている。

インターネット
ホームページ作成 回線維持に公的助成を

プロップでは、インターネットに接続し、昨年9月にはホームページを開設した。企業などのホームページ作成を代行する業務を本格的にスタートさせた。

受注は全国どこからでも可能で、同断対の実務部門「プロップ・ウィング」が注文を受けて打ち合わせ等を行い、障害者に仕事を割り振る。ネット上で作業を進め、ウィングが集約して納品する。コンピュータに熟練した10人がチームを組んで担当するが、今後、対象者を徐々に広げていく。

作品の質は専門業者と変わりなく、営利事業ではないため料金も格安。基本料金は10万円程度、ホームページは1ページ1万2千円からで、データを自社で揃えればもっと安くなる。すでに数社から引き合いがきているという。

竹中さんは「自分の能力を100パーセント発揮でき、それが収入になれば誇りも高まり、目の輝きも違ってくる。インターネットはこれまで健常者の“残り物”の仕事しかなかったチャレンジドに最先端の仕事のチャンスを与え、こうしたアンテナで社会状況の変化も実感できる。インターネット・ビジネスの動きは早いが、ホームページ作成の次にどんな仕事が来るかを知ることもできる」と話す。

在宅勤務をする場合のネックは、通信回線の使用料が高いことで、回線維持のための行政支援は欠かせない。「福祉の枠で差し上げるという発想ではなく、在宅で健常者と同じ条件で仕事ができるように通信回線をサポートするような税金の使い方が必要」(竹中さん)。

コンピュータは、内にこもりがちだった障害者を広く外の世界に目を向けさせてくれる。また、通信回線で文字情報などになると、障害が相手には見えないためその人が与えるイメージ、第一印象とは違う本質、本当の能力を伝えることができる。プロップの機関誌編集長も頸髄損傷で自力で起きあがることもできないが、パソコン通信を使ってベッド上で仕事をしている。

コンピュータとネットワークはあらゆる人の働き方を帰る可能性を秘めている。女性や高齢者の中にも在宅勤務を望む者は少なくない。重度障害者に商店を当て仕事のできる環境を整備していくことは、やがて女性や高齢者の雇用拡大にもつながっていく。プロップの果敢な取り組みはその方向性を示唆している。

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