毎日新聞 1995年12月11日より転載

大阪のボランティア団体

パソコン通信で障害者の就労支援


竹中ナミ代表

マルチメディア時代になれば、職種によっては在宅勤務が可能になると言われる。会議や打ち合わせ、書類のやりとりなどがコンピューターネット上で行えるからだ。最も恩恵を受けるのは通勤が困難であるために、働く意欲も能力もありながら仕事に就けないでいる人たちだろう。そうした時代を先取りするかのように大阪の民間ボランティア団体「プロップ・ステーション」(竹中ナミ代表)が、パソコン通信ネットやインターネットを活用して障害者の仕事を確保する取り組みを始めている。

(メディア情報部・和田隆)

操作指導や相談など ネット通し、在宅学習も

大阪市北区、大阪ボランティア協会の研修室で夜間に開かれているプロップ・ステーションのコンピューターセミナー。訪れた時、初級、中級者向けの講座の最中だった。車いすの人ら8人がボランティアのサポートを得ながらパソコンに向かっていた。

「俳句作りが趣味。パソコンで句集を出版したい」(兵庫県西宮市、井上雅友さん、43歳)「絵本作家を目指している。手を前後左右に大きく動かすのが困難で、大きな絵がかけない。パソコンなら、それが可能」(大阪府枚方市、久保利恵さん、21歳)と目標がある。

セミナーは週に1回。これだけでは時間不足だが、そこをパソコン通信ネットが支えている。プロップ・ステーションが開設している「プロップ・ネット」で、受講者は自宅で自習、分からない所をこのネットを通じて質問する。教えるのは、ネットに参加している約200人。プロの技術者ばかりではなく、先日まで教わる側だった人の場合もある。教える側も、勤務先や自宅で対応でき、効率がいい。

セミナーは、初級、中級者向け以外にも、上級者向けやプログラミングを学ぶコース、パソコンを使った出版システムを学ぶコースなどがあり、計35人が学んでいる。

プロップ・ステーションは、阪神間で約20年間、障害者福祉に取り組んできた竹中代表らが1991年にパソコンを障害者の就労に役立てようと発足させた。パソコンに焦点を当てたのは、重度障害者へのアンケートで、回答者の8割が就労の手段としてコンピューターの技術取得をあげたことから。セミナーやネットのほか、相談事業、機関誌の発行などに取り組んでおり、今年9月からはインターネット上にホームページを開設、仕事やボランティアを募っている。

一般業者と競争できる修了者も

実務部門があるのは、大阪ボランティア協会近くのマンションの一室。10台前後のパソコンやワークステーションに囲まれるようにして竹中代表と実務担当者の鈴木重昭さんが作業を進めていた。ハードウエア、ソフトウエアともに、さまざまな企業から寄付されたものが少なくない。ネットの中心になっているホストコンピューターに次々とアクセスが入り、この一室が障害者たちの“よりどころ”になっていることを実感した。同じように「パソコンで仕事を」と考えている障害者団体は各地にあり、最近、見学や問い合わせが相次いでいるという。

プロップ・ステーションでは、障害者のことを「チャレンジド」と呼ぶ。積極的な生き方という意味が込められているそうだ。セミナーの修了者のなかには、高校の教務管理システム作りや貿易会社の在庫管理システム作りなどの仕事をこなした人もおり、同様に、技術を身に着けて、いよいよ仕事の注文に応じられるという人が現在、約10人。「一般の業者と競争できるチャレンジドがたくさん生まれつつある」という竹中代表の言葉に、マルチメディア社会の明るい側面を見たように思った。


ボランティアのサポートを受けながらパソコンを学ぶ障害者たち=大阪市北区の大阪ボランティア協会で

プロップ・ステーションは電話06-881-0041。インターネットのURLは「http://www.eni.co.jp/prop」。

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