福祉新聞 1992年11月2日より転載

「働く」施設たずねて (5)

パソコン駆使し在宅勤務

プロップステーション設立準備会 (大阪)

パソコンのディスプレイの中では、障害の有無は関係ない─パソコン通信や音声入出力装置、オプタコンなどの障害者用サポート機器やコンピューター技術を活用することにより、就労の機会がほとんどない重度障害者と人材不足に悩む企業の橋渡しをしようと、昨年5月に「プロップステーション設立準備委員会」(竹中ナミ代表=大阪市北区)が誕生。障害者の在宅就労の道を探るとともに、企業と障害者をプロップ(=支柱・支え合い)な関係に…という夢の実現に向けて活動を行っている。

(井)

将来は在宅セミナー開催も


足指でキ-ボードを操作する受講者

プロップステーション設立準備委員会(略称プロップ)は、障害者や障害児を持つ親、パソコン通信の呼びかけに応じて参加したコンビューター技術者で構成された、障害者の職業的自立を援助しようという市民団体。

プロップは、「障害者の身体機能をサポートできるのがコンピューターであり、それを活用することで、就労も可能ではないか」と、結成当初から、コンピューター技術に着目し、技術習得のための講習会やパソコン通信を利用しての就労情報の提供などを行っている。

活動を開始するにあたり、プロップが、全国の視覚、聴覚、肢体不自由など、約1300人の障害者を対象に行った就労に関する意識調査では、現在、勤務をしている障害者のうちの3割以上がコンピューター関連であるとともに、「仕事としてやってみたい」「関心がある」という答えが約8割、「自費でもいいから就労に結びつくパソコンの養成講座を受講したい」が61%もおり、障害者がコンピューターに寄せる関心の高いことも分かった。

こうした結果から、プロップでは、今年9月から、会計処理やCG(コンピューターグラフィックス)などが扱える専門技術者を養成しようと、コンピューターセミナーを開催。来年3月までの半年間、毎週水曜日午後6時から、6人の受講者を対象に、

  1. 基本操作及びビジネスソフト(7回)
  2. 専門ソフト
    1. DTP、イラスト(6回)
    2. CAD、3D、CG(4回)
    3. プログラミング(10回)
    4. リーショナル・データベース(4回)

について講座が行われている。

このセミナーの開催に当たっては、外資系コンピューター会社からパソコン11台が寄贈されたのを始め、インストラクターも、パソコン通信の協力呼びかけで集まった26人のコンピューター技術者などが、ボランティアとして協力してくれている。

プロップでは、11月から新たに、大阪市内のコンピューター会社の講習室を借り、セミナーを開設する予定で、将来的には、移動が困難な障害者のために在宅でセミナーが受けられるようにしたいという希望も持っている。

また、プロップでは、企業を訪問し障害者の雇用について理解を図るとともに、協力を依頼する啓発活動やパソコン通信、機関紙「フランカー」を通じて、就労に関するさまざまな情報提供なども行っている。

パソコンに関する知識や求人情報、障害者の就労意識・体験など、コンピューターと障害者を結び付けたさまざまな情報が掲載されている機関紙「フランカー」は、5人の障害者がそれぞれ自宅でパソコン通信を駆使しながら作成しているもので、コンピューター技術の高さとともに、障害者の在宅勤務が可能であることを示している。

頸損者 就労情報紙を編集


ベッドでCG作業する桜井編集長

「フランカー」編集長の桜井龍一郎さんは、この機関紙編集の技術の高さを見込まれて、今年の7月から、CGの制作会社のオペレーターとして正式採用、在宅勤務を行っている。

大学時代に頸髄を損傷し、手足の自由を失って10年、社会参加、就労の希望を持ちながらも、通勤や長時間の車イスでの仕事が困難のために、在宅での生活をしてきた桜井さんが、プロップの活動に参加し、「フランカー」の編集に携わるようになったのは昨年のこと。

この「フランカー」を読んだ大阪市内のCG制作会社が「技術さえあれば障害の有無は関係ない」と、不足するCGオペレーターとして、職安に求人を依頼、求職登録をしていた桜井さんに話が持ち込まれ、7月から在宅で勤務を行うことになった。また、今年改正された「障害者の雇用の促進等に関する法律」で認められた、情報処理や編集などの特定職種の短時間在宅勤務の企業助成制度の第1号として適用される予定(現在、申請中)でもある。

桜井さんは、ベッドの上で仕事を行い、データのやりとりや制作したCGモデルの送信には、電話のデジタル回線を使用、また指が動かないためにマウス(入力装置の一種)を使用できないので、サポート機器の1つであるトラックボール(上面のボールを転がして操作するもの)を使い業務をこなしている。

給料は、他の作業員に比べ就業時間が少ないために、十万円程度と安いものの、厚生年金や健康保険、休暇制度などの待遇面は他の従業員と全く同じ。

パソコンを使っての在宅勤務を桜井さんは、「自分のペースで仕事ができるし技術さえマスターすれば、サポート機器などを活用することで、誰でも就労が可能であり、そのためにも、企業と障害者を結びつけるプロップの活動が重要になる」と言う。

プロップでは、現在、障害の就労を援助するための法人「プロップステーション」の正式な発足に向け、準備を進めており、今後の活動が期待されている。

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