作者の近況(2007年6月3日)

『一駅間のドラマ』

神戸に帰郷したおりに遭遇し、今でも忘れられない出来事があります。

それは娘と二人、最寄り駅のJR六甲道で乗り込んだ車内のことです。

私たちの向かいの席にはおじいさんと二人の男の子の兄弟が座っていました。

きっと孫を連れてどこかに遊びに行くのでしょう、
おじいさんはカメラをぶらさげています。

お兄ちゃんは13、4才?
憂いを含んだほっそりとした美少年です。
7、8才の弟は
おじいさんとお兄ちゃんの間で
窓に張り付いていて、お顔は見えません。

私たちと同じに乗り込んで来て、
お兄ちゃんの横に座ったのは4、5才の男の子とお母さんでした。
(以下四五歳児と呼びます)

四五歳児とお兄ちゃんはなにげなく目を合わしました。

その時です。
(ビビビビー!
      電流が走ったか?)

”ベニスに死す”のタ−ジオに似た面立ちのお兄ちゃんに
一瞬にして、四五歳児の心は奪われたのです。

 

小さな手をお兄ちゃんの顔に伸ばし触ろうとしたり、しなだれかかろうとしたり・・・。

必死で止め、謝る四五歳児の母。

その母親にお兄ちゃんは優雅に片手をふって、かまいません、のしぐさを。
四五歳児を見つめるお兄ちゃんの
なんていう慈愛のこもったまなざしでしょう。
まだ、思春期前の男の子なのに。

そして四五歳児が生意気にもはめている腕時計を指さし、いいねぇの仕種。
窓を見ている弟もよび、四五歳児と遊び始めました。
その弟もこれまた美形で!

 

しかし無常にも次の駅が四五歳児の降りる駅だったのです。
まあ、引き裂かれた恋人とはこのこと?
四五歳児は母親に抱き抱えられ、泣き叫びながら連れ去られて行き、
扉がガシャンとしまって電車が走り出したその刹那に響いたのは悲痛な声でした。

 「お兄ちゃ〜ん!」

今でも耳にこびりつく・・・・。
   優雅にお別れの手をふるお兄ちゃん・・・
      走り去る電車・・・・
         遠ざかる駅・・・・

四五歳児が降りた駅には動物園があり、親子はきっとそこに行くと思われ・・。
(♪ララ〜ラララララ〜ラ「ロ*北の国からのメロディで)

四五歳児とお兄ちゃんのドラマはたった5分のこと、四五歳児が恋に落ちたのは僅か一秒。
きっと前世は恋人同士?
感動をありがとう!

しかし自分の孫がそんなハ−トウォ−ミング・スト−リ−を繰り広げているというのに、
そして向かいの席の乗客全員が、うるうるしているというのに
ボーっとしてなあんにも感じていないような
まる子ちゃんちの“ともぞう”のようなおじいさんっていったい・・・。

でもあなたの遺伝子のおかげでこ〜んなに素晴らしい
神様の創造物ができたのですから、“ともぞう”にも感謝、です。

 

 

 

あ〜あ、いったい、あのお兄ちゃんはどんな青年になるのでしょうか?
明るい日本の未来を確信いたしました。

 

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