SOHOコンピューティング 2002年2月号より転載


 雇われへんなら社長や!
ベッドの上の起業家誕生
   
  2001年5月スタート
川本浩之さん (40歳) 京都府京都市西京区
上育堂(Wake-Do)
http://www.wake-do.com/
 

 
パソコンに向かい、仕事をする川本さん。
「チャレンジド」という言葉は 神から挑戦することを与えられた人をいう。近年「障害者」に代わる新たな呼び名として米国で始まった。
川本浩之さんは、25歳のときに趣味のモトクロスレースで転倒事故を起こし頚髄を損傷。肩から下の感覚と機能を失い、以来15年間、1日のほとんどがベッドの上という生活を続けている。
「事故から数年は、自分はあと何年生きなければならないのかと考えた時期もありました。この施設の開園とともに入所したのですがこれからの自分の生活を考え直すいい機会でした」
そんな折、出会ったのが「プロップ・ステーション」という団体だった。プロップ・ステーションはコンピュータを活用してチャレンジドの自立と社会参加、中でも就労の促進や雇用の創出を目的に活動する社会福祉法人である。
「プロップ・ステーションとの出会いで、働きたいという衝動にかられました。それまでにパソコンは購入していましたが、周囲に教えてくれる人がいなかったので、毎日ゲームばかり(笑)」
1995年、初めてパソコンセミナーを受講し、いよいよ川本さんの本格的なチャレンジが始まった。週1回のペースで大阪にあるプロップ・ステーションまで出かけ、C言語などのプログラムのイロハを学んだ。指が動かないため補装具を口に加えるスタイルを自分なりに工夫し、今やワープロ検定4級という腕前だというから恐れ入る。その後も通新教育で勉強するが、「プロップ・ステーションの指導方針は、ヒントは教えてくれますが、答えは自分で考えろという厳しいもの。でもそれが今の自分にとても役立っています」。
療護園の中で企業
自立と社会参加のためのテストケースになれば


(上)療護園の前庭でワークス共同作業所の大崎雅彦さん、週1回梱包などの仕事を手伝ってくれる山下優香里さんと(左)山下さんは花園大学社会福祉学部2回生

実力試しと社会への貢献を考えて作ったホームページは、「ハンディキャブ」ガイド。ハンディキャブとは車椅子ごと乗車できる福祉自動車のことだが、全国にはバスやタクシーなどの利用が難しい移動困難者のためにハンディキャブや福祉タクシー、NPOのボランティアなどが存在する。これらの福祉活動を地域別に紹介したところマスコミに注目され、生まれて初めて講演を依頼されるなど後のネットショップ開業への大きなきっかけになった。ホームページ制作代行業を開始してしばらく後、「Tシャツのネット販売を思い付いた」という川本さんに、まるで用意されたような偶然の出会いが待ち受けていた。今や欠かせないパートナーである「Work's共同作業所」の所長大崎雅彦さんとの出会いだ。彼はチャレンジドによるプリントTシャツの制作販売やホームページの作成を請け負っていた。「私は営業回りが簡単にはできないので、大崎さんにマネージメントを依頼し、ホームページの作成や更新の仕事を紹介していただいています。商品の発注についても迅速に対応してくれて、ときには無理を聞いてもらえるので助かっています」
また、Tシャツのデザインの絵を提供してくれた墨彩画家の林かおるさんと川本さんは同じバイク仲間だった。しばらく音信不通だったが、彼女の個展で久々に再開する機会に恵まれる。
「そのとき一枚の絵に心を奪われて、どうしても欲しいという気持ちに。 大枚をはたいて手に入れたのですが、この絵をTシャツにプリントして売りたいという私の願いを彼女は快諾してくれました」
開業を2001年5月30日と決め、ホームページを制作。レンタルサーバーとの契約、ドメインの取得、ショッピングカートの導入……と、ネットショップの体裁を整えるための川本さんの奮闘が始まった。
「身体のケアでは全幅の信頼がおける洛西ふれあいの里療護園の中で起業できたことはとても感謝しています。今後、重度身体障害者が自立と社会参加を実現するテストケースになればいいですね」
“所在地は17号室のベッドの上”。明るく洒落っ気のある川本さんらしいキャッチフレーズだが、これはあくまでも川本さんの仕事が個人経営であることを明示し、商売上のトラブルに施設を巻き込まないようにという配慮からである。
障害と上手に付き合いながら夢を実現しようとしている川本さん。今では「こんな面白い生き方があと何年できるか」と心配するほどだとか。 前向きな川本さんだが、その穏やかな笑顔には、悩みをもつ人々に対し、商品であるTシャツの胸にも描かれている「本当はね、そんなにがんばりすぎなくてもいいんだよ」というやさしい語りかけを感じさせる。


プロップ・ステーション
川本さんのバイブルとなった1册。プロップ・ステーション理事長の竹中さんが書いたこの本が、勇気を与えてくれる。
写真:『プロップ・ステーションの挑戦』表紙
プロップとは「支援」の意味。1991年、現理事長の竹中ナミ氏によって設立され、98年に社会福祉法人となる。企業、自治体等から業務委託された仕事を、PCによるネットワークサービスで在宅の障害者(チャレンジド)へ紹介。コンピュータセミナー等を実施し、チャレンジドを納税者にできる日本をスローガンに彼らの自立と就労の促進を図っている。
プロップ・ステーションのホームページ
http://www.prop.or.jp/

●月刊サイビズ ソーホー・コンピューティングの公式サイト http://www.soho-web.jp/
●出版社 株式会社サイビズ
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