特別寄稿
雇ってくれる会社がない・・・
ええよ。だったら 社長になってやる!
川本浩之(わびすけ)
 

プロップの仲間には、福祉施設の中で起業した重度のチャレンジドが何名かおられますが、その第一号がこの川本浩之こと「わびすけ」くん。

もと自衛官という異色の経歴を持つ「わびすけ」くんが、モトクロスの事故で頚椎を損傷しチャレンジドとなったのは15年前。

プロップのコンピュータセミナーで学び、技術を身につけ、福祉施設を「SOHO基地」として働く「わびすけ」くんが、日々の暮らしを率直に語りました。


上育堂最大の危機

写真:ベッドの上でパソコンを操作する川本さん重度障害を持つ私が働く上で介助者の存在はとても大きなものです。在宅生活ならばこの介助者は家族・ホームヘルパーであり、私のような療護施設入居者は主に施設スタッフが介助者となります。
施設スタッフは私たち入居者の生活支援が仕事です。私は首から下は感覚のない肢体麻痺の障害で食事はスタッフの手で口に運んでもらいますし、着替え・入浴・排泄等のすべての生活行為に何らかの介助が必要です。

ベッドの上で仕事をするにしても、体を起こしてもらい、パソコンのセットをしてもらい、そしてパソコンの電源を入れてもらい、すべてに介助が必要です。
ここまでは施設スタッフは喜んで手を差し伸べてくれます。問題はここから先です。施設スタッフ間で問題となるのは、入居者の生活支援として私の仕事、露骨に言えば「個人の金儲け」にどこまで業務として手を差し伸べてよいのかという事です。

施設スタッフの喜びは入居者の生き生きした生活です。私が仕事を始めるにしても何一つ異論・妨害はありませんでした。
しかし療護施設の現実は、一人のスタッフが複数の入居者の介護・介助を掛け持つ毎日。深夜ともなれば数十人の入居者に対して夜勤スタッフは3人なのです。つまり私が介助を求めたときにいつも都合よく手の空いたスタッフがいるとは限りません。というより、いないのが普通なのです。
よく冗談でスタッフに「データ入力を代わってくれ。」と言えば、「誰か業務を代わってくれたら、なんぼでも手伝う。」と返事が返ります。

こんな状態なので、上育堂開業時に私は何とかアシスタントの確保が必要となりました。ネット通販をするとなれば商品の管理、伝票の整理、書類の代筆と私の動かぬ手ではできない事が山のようにあるのです。これらのことを業務中の施設スタッフにやってもらおうなどと考えれば甘すぎます。

何より現実な問題は、上育堂に常時アシスタントを雇うだけの十分な資金も、見通しもありませんでした。頼みたい仕事も週に1〜2回、それも1〜2時間程度手伝って欲しいだけ。出せるギャラも交通費程度。この条件を呑んでくれるアシスタントはそう容易く見つかりません。
実は声をかければ手伝ってくれる人は周囲にいくらでもいるのです。しかし困った事に、みんなギャラの話になると「ギャラはいらん」と言ってくれるのです。一見都合のいい話ですけれど、それでは私は仕事に誇りがもてません。いくら障害者だからといってボランティアを利用して金儲けは反則でしょう。

写真:ゆかりさんと一緒にTシャツの販売をする川本さん開業を控え、アシスタント確保に途方に暮れていたとき、私の前に現れたのがゆかりちゃんでした。
大学で福祉の勉強をしているゆかりちゃんは私の気持ちを理解してくれて、アシスタントを引き受けてくれました。こうして救いの天使を得た私は憂いなく開業に踏み切れたのです。そして今日まで彼女の支えでネットショップ事業を続けてこれました。

しかし彼女も大学の三回生、就職活動に入らなければならなくなりました。もういつまでもゆかりちゃんを都合よくアシスタントとして引きとめておくことはできません。ましてや上育堂は彼女を正職員として迎えるだけの力もありません。
この秋、ゆかりちゃんは上育堂を離れる事になりました。また途方に暮れる私。

これから私の「運」と「力量」が試されるのです。

上育堂最大の危機(2)
−ゆかりちゃんに感謝を込めて−

もともと、ゆかりちゃんは私が入居している療護施設へ実習生としてやってきました。実習が終わってひと月ほどたったある日、ふらりとゆかりちゃんが施設に遊びに来たのです。ちょうど私は見たい映画があったので、ゆかりちゃんに映画の付き添い介助を頼みました。

後日二人で映画に行った日のこと、駅で切符を買おうとした時、ゆかりちゃんが自分の財布からお金を出そうとしたので、私は「出さなくていい」と言いました。
戸惑うゆかりちゃんに私は、「俺の行きたいところに行くのだから、交通費は俺が出す」ときっぱり告げました。ゆかりちゃんはそれまでボランティアというものは手弁当・ワリカンが大原則という先入観があったようです。
でも私の考え方は違います。たまにしかできない外出、こんな時ぐらい自分の行きたいところに行き、自分の食べたいものを食べたい。そんな時に付き添い介助者の財布の都合をいちいち気にするくらいなら、全部自分が出す。
当然この日も二人の交通費、映画代、食事代はすべて私が出しました。

私の外出につきあった事で、ゆかりちゃんはボランティアのあり方について考えの幅が拡がりました。これなら彼女に上育堂のアシスタントを頼めると、私はゆかりちゃんにアシスタントを依頼することに決めました。

しかし、ゆかりちゃんが初めて上育堂のアシスタントをしてくれたときのこと、やはり彼女はギャラの受け取りを拒みました。このときは無理やり受け取らせましたが、このままでは彼女をアシスタントとして使う事ができません。
ボランティアをタダで使い、それで金を稼いだのでは私は仕事に誇りをもてないのです。
そこで私はゆかりちゃんにアシスタントを続けてもらうために、「プロップ・ステーションの挑戦」と「20世紀を彩った女たち」という2冊の本をゆかりちゃんに渡しました。

写真:ベッドの上でパソコンを操作する川本さん前書は私がどういう生き方がしたいのか、後書は「アテンダント」という私の必要としているボランティアの形が記されていました。この本を読んだゆかりちゃんは今、上育堂に必要なものを理解してくれたのです。

こうして私は、ゆかりちゃんという強い支えを得て約1年半上育堂を営んできたのですが、残念ながら、大学三回生となったゆかりちゃんは就職活動に入らねばならず、上育堂を離れる事になりました。私はまたイチから上育堂のあり方を理解してくれるアシスタントを探さねばなりません。

アシスタント探しに焦る一方、ゆかりちゃんを上育堂に引き止めることのできない自分を悔しく思います。私にしてみれば上育堂は私一人ではなく、ゆかりちゃんと二人で築いたものなのです。

ゆかりちゃんには、こう言いました。「上育堂を繁盛させて、いつか必ず重役にヘッドハンティングする。」

もしくは愛人・・・はは・・・・
ヘ(_ _ヘ)☆\( ̄∀ ̄*)


 

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(代表・川本浩之 常時留守電)

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雇われへんなら社長や! ベッドの上の起業家誕生
SOHO コンピューティング 2002年2月号

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