作成日 1998年3月吉日
連載最終回
世界に広がる |
インターネット |
広がる世界 |
中部学院大学人間福祉学部
井村 保
e-mail:imura@chubu-gu.ac.jp
これまで3回にわたって、インターネットとは何かということから始めて、生活がどのように変わるのかということを簡単に説明してきました。いよいよ最終回となった今回は、私がこのようにインターネットの利用を勧める理由を、インターネットやコンピュータの中にある福祉を探し、これまでの話を振り返ることでまとめて、この連載を「結」びたいと思います。
この連載が続いている間も、インターネットの利用者はどんどん増え、ホームページで提供される情報も増えています。これは、第2回でも書いたように手軽な情報発信手段として活用され始めたことの証しだと思います。
しかし情報が増えたということは、よいことばかりではありません。インターネット上で公開されている情報の多くは、個人から発信されているものであり、新聞やテレビなどのような内容の審査(?)は誰も行っていません。ですから、利用者側が必要な情報を探し出し、その内容が必要としているものか、さらに本当に正しいものかなどといった「情報を見極める」ことも要求されてきます。 といっても、これはなかなか大変なことだと思いますので、まずは正しい情報を適切に紹介してくれるリンク集などを見つけるとよいでしょう。障害者福祉に関するものでは、第1回で紹介させていただいた私の「福祉と障害者支援情報の総目次」でも、そうなるように心がけています。しかし、最近では登録件数も400件をはるかに超え、WWWへのリンクだけでも6ページにわたるようになり、知りたい情報がどのページにあるのか探すことが私自身も困難になってきました。そこで、表示方式にも検討を加え『福祉と障害者支援情報の総目次−選択表示−』(*1)を作ってみました。本格的な検索機能は、後述のVCOM-CHIMEで作成することになりましたが、とりあえず、現在採用している項目ごとに表示・非表示を選択し、指定した項目についてのみ登録されているリストを表示するものです。本格的な検索には及ばないものの、知りたい項目が決まっている場合、そして、それらが複数のページにまたがっている場合には、すこし使いやすくなったのではないかと思いますので、機会があればお試し下さい。しかし、個人的な運用ではここまでが限界ですので、さらに多くの有志と連携しながら次のような取り組みも行っています。
|
(*1) 『福祉と障害者支援情報の総目次-選択表示-』 http://www.chubu-gu.ac.jp/wic/ir/h/indexs.html/ |
|
|
(*2) 『CHIME Service Project』 http://www.neting.or.jp/welfare/chime/ |
(*3) 『VCOM-CHIME サーチエンジン』 http://vcom-chime.vcom.or.jp/ |
さて、皆さんはパソボラという言葉を聞いたことがありますか?きいたことがなくても何となく気がついた方もおいでるかと思いますが、「パソコンボランティア」の略称であります。パソコンの進化は著しく、高機能になるにつれて操作が複雑になってしまっていることもあります。そんな面々を助けてくれるのがこのパソボラのサポーターです。パソボラは、とりくみのなかでつくられた言葉であり運動の総称です。「パソコンが使えなくて困っている」という障害者を、講習会や在宅訪問を含めてサポートしてくれます。サポーターがエンジニアならば、オリジナルの補助具を自作することもあります。メンバーは、主婦や学生、退職された会社員、もちろんちょっと先輩の障害者自身もいます。そうした全国の街にいるメンバーたちが、パソコンのネットワークによって、日々情報を交換しています。この連絡調整役が『JD・日本障害者協議会』(*4)の情報通信ネットワークプロジェクトです。
そして、このパソボラにかかわる人々の集いが『PSVC(パソボラカンファレンス)'98 in Nagano』(*5)です。'97年に第1回目は「パソコンボランティアと障害者電子ネットワークの挑戦」をテーマに早稲田大学国際会議場で開催され、第2回目となる'98年は「パソコンボランティアとネットワークの挑戦」をテーマに長野で開催されます。長野パラリンピックを成功させるためにも・・・と企画されていましたが、なんと、長野パラリンピック文化プログラムにも決定しました。
|
(*4) 『JD 日本障害者協議会』 http://www.vcom.or.jp/project/jd/index-ja.html/ |
|
|
(*5) 『PSVC(パソボラカンファレンス) |
(*6) 『パソコンリサイクルホームページ』 http://www.people.or.jp/~kacchin/ |
さて残りが少なくなってきましたので、このあたりで少し復習してみましょう。なぜ、パソコンやインターネットを使うとよいのでしょうか?障害の有無にかかわらずコンピュータが使えるという「パソコンとバリアフリー」については第3回でも紹介しましたが、もちろんメリットはこれだけではありません。このほかにも、「場所を選ばない」、「非同期通信である」、「双方向性がある」といったことなどがあげられます。
インターネットは多くのネットワークが複雑につながり合っていること、その上を通る情報は電気的信号であるので瞬時に伝送できることにより、地図上の位置関係つまり地理的な距離にはほとんど無関係で、世界中のどこにあるコンピュータでもインターネットに接続されているならば同じような感覚でアクセスできます。そのため、隣に住む人でも海外に住む人でもほとんど同じ条件での情報のやりとりやコミュニケーションがはかれます。
また、インターネットカフェと呼ばれるインターネットにアクセスできるパソコンの置かれた喫茶店や書店さらには図書館などの公共施設などが増えたり、携帯電話・PHSあるいはグレーの公衆電話と小型パソコンや情報端末を組み合わせてインターネットを利用するモバイル環境を実現することができるようになり、出張先などの外出先からでも利用可能になり、居場所に関係なく連絡もできます。このように2つの側面から「場所を選ばない」ということになります。
次に離れたところにいる人同士がコミュニケーションをとる手段を考えたいと思います。一番早くて確実なのは、やはり電話だと思います。しかし、電話の場合双方が同時に電話口にいる必要があり、国際電話などでは時差を気にしなくてはいけません。その点、電子メールでは、相手がその場にいてもいなくてもよく、時差も気にすることなく送ってしまえば、それなりの時間で返事が届くことになります。さらに、相手に送る原稿などはオフラインでゆっくり打ち込みそれを一気に送信することができます。そのため、自分のペースでのコミュニケーションも可能になります。これが「非同期通信」ということです。
そして、私が1番大きな特徴だと思っているのは、これまでにも何度か軽くふれた「双方向性」があるということです。これまでに普及してきた、新聞・雑誌などの活字メディアや、テレビ・ラジオなどの放送メディアとの大きな相違は、誰もが情報を取り出すこと、受け取ることができると同時に誰もが情報を発信することができるということではないでしょうか。つまり、これまでは情報の「受け手」と「送り手」がそれぞれ別の立場として存在していたのですが、インターネットでは、特にホームページを使うことで誰もが簡単に情報を発信できるようになり、情報の「受け手」であった人が、同時に「送り手」になることができるわけです。これによって、誰もが簡単に意見を述べることができ、それを多くの人に知ってもらうことにもつながります。
しかし、このように多くのメリットがあるインターネットも、もちろんパーフェクトではなく問題点もあります。 まずは、「情報を普及させる」ことが必要ではないでしょうか?そんな難しいことでなくても、「インターネットではこんなことができるよ」とか、障害があっても「こんな機器を使えば問題ないよ」といった、インターネットを利用するきっかけがどこにでもあるとよいのではないかと思います。そして、多くの人にこれらの情報が伝わり始めたなら、福祉現場などでもインターネットを導入し、職員や利用者を問わず利用できる環境が整えば、そこでも、特殊入力装置についてのノウハウがわかるような指導者の養成ができると心強いと思います。
そして第2回でも書きましたが、誰もができることに、ホームページを作るときは、あまりデザインにこりすぎてはいけない、というよりこりすぎないでほしい、ということがあります。さまざまな環境で利用している人がいるということを常に記憶の片隅においていただき、誰もが同じようにアクセスできるようなユニバーサルデザインを配慮していただきたいと思います。
またあまり頼りすぎると、インターネットなしでは過ごせなくなるようになってしまう場合もあり「便利すぎても不便」となるかもしれません。そうするとパソコンにトラブルが生じて使えない場合、あるいは停電の場合・・・困ってしまいますよね。ですから、パソコンやインターネットを活用しながらも、頼りすぎず、あくまでも道具の1つであることを忘れずにいて下さい。
通常なら最後は「おわりに」として締めくくるのですが、今回の連載は皆さんがインターネットを利用するきっかけになればとの思いで書いてきたものですから、あらたな生活への『はじめに』として終わります。
さあ皆さんいっしょに
すべての人に優しい インターネット社会を 目指して!!
インターネットの世界へ飛び出しましょう! それでは、まだどこかでお会い出来ることを楽しみにしています。(完)