作成日 1997年10月20日

連 載

世界に広がるインターネット広がる世界

第3回・何か変わる!何が変わる?
中部学院大学 人間福祉学部
井村 保
E-mail : imura@chubu-gu.ac.jp


 前回は自分も情報発信者になろうということで、ネットサーフィンをする人からされる人への変身について書きましたが、この2回でインターネットはどういうものか少しはわかっていただけたと思います。第3回目の今回はちょっと見方を変えて、実際にインターネットを利用することで、生活そして暮らしの中での「何か変わる!何が変わる?」をテーマに書きたいと思います。

●インターネットの利用価値

 インターネットを利用することで生活がどのように変わるかを考える前に、まずインターネット(特にホームページや電子メール)を使うメリットは何であるのかを考えてみたいと思います。最も大きな点は、新聞・雑誌などの活字メディアやテレビ・ラジオなどの放送メディアとは異なり、利用者が情報の受信および発信の両方ができる双方向性があることであり、ホームページなどを利用してこれまで入手が困難であった情報を得ることができると同時に誰もが手軽に情報を発信できることではないしょうか。これにより、既存の制度利用や社会参加など生活の諸側面で不利な立場に立たされることが多かった人々にも効果的に情報を提供して情報・知識の拡大につながり、さらには在宅就労・社会参加を促進する可能性を秘めていると思います。

 さらに、在宅でも利用できること、障害があってもそれに適応した機器を使うことで障害の有無にかかわらず利用できバリアフリーを実現する手段にもなりうるものであり、かつ健常者や障害者を問わず多くの利用者が同じ環境を利用していることで、あまりふれあう機会がなかった人同士が知り合う場にもなり、外出が困難でこれまで閉鎖的になりがちであった障害者などにとってのコミュニケーション手段の1つとして新しい選択肢になることも期待できるでしょう。

●ニュースを読む

 では、実際にどのようなことができるのか紹介したいと思います。社会での出来事、世間の動向などを知る一般的な方法としては新聞を読んだり、テレビ・ラジオでニュースを見聞きすることがあると思いますが、インターネットを利用しても同じようなことができます。

 ホームページでニュース速報や新聞の主な記事を随時公開しているところや、電子メールでニュースや話題を定期的に配送してくれるところなどがあります。もちろんこれらの内容にもさまざまな種類があり、社会全体に関する総合的なニュースもあれば、特定分野に限った専門的情報のみを扱うところもあります。

 例えば、ニュース全般を扱っているのは『朝日新聞』(*1)。最近では新聞社によるニュースのホームページも数多くありますが、朝日新聞社はホームページが世間に知られるようになって間もない頃からニュースを提供し、その内容も随時更新されていて速報性にも優れています。それに伴い利用が集中しアクセスが遅いということもありましたが、それを跳ね返すように、いろいろなプロバイダにミラーサーバを設置していますので、より快適なサーバを探しご利用下さい。

 『医療福祉新聞』(*2)は、「電子メール」を媒体として購読会員に日刊紙を配信するサービスです。医療・福祉関連分野の方で専門的な情報を求めている方だけでなく、それ以外の一般読者でも日常生活において医療・福祉に関心、興味を持っている方などに、さまざまな情報や話題を提供しています。有料サービスですが、バックナンバー(2週間以上前)はホームページにても公開されていますので、是非そちらもご覧ください。

●仕事ができる・趣味を楽しむ

 このほか、インターネットを利用することで何が変わるのでしょうか?例えば、ホームページを使って世界中のあらゆる国・地域の情報をほぼリアルタイムに入手できることを逆に考えれば、利用者どこにいてもよいわけです。つまり、居場所にこだわることが不要になり、地理的な制約をこえて、はじめに書いたように、在宅勤務をはじめとしてさまざまな形態での就労が可能になります。また、在宅での学習も可能になると思います。もちろん、仕事だけではありません。さまざまな生活情報や身近な話題、趣味にこったホームページもありますので、これらを思う存分楽しむこともできます。

 「パソコンをバリアフリーの武器に!ハイテク&ねっとわーくで障害者の未来を築こう」と掲げる『福祉パソコンの会』(*3)では、在宅就労に向けて「障害者就労ネットワーク(サイバーワーキングシステム)」を6月から始め、ロータリークラブの毎週発行される会報作成(DTP)をメインに関連冊子の作成などを、ネットワークで「障害者在宅就労ネットワーク」に加盟する障害者の方々に配分し、入力、レイアウト(PageMaker、 Photoshop)作業を在宅でやってもらっています。

 もちろん、Challenged の皆さんだけでなく、元気に活動するシニアの皆さんもおいでます。『シニアネット金沢』(*4)は、55歳以上のシニアの方をメンバーとするインターネットクラブです。ハワイに行ったことをきっかけに、ハワイのシニアの方と電子メールを使っての文通がはじまりました。今年の3月3日(ハワイ時間)には、CU-SeeMeを使い、インターネット上での再会を果たし「オンラインひなまつり」も実施しました。現在は京都のシニアの方とのメール交換がはじまり、近日中に京都へ遊びに行くそうです。

●パソコンとバリアフリー

 このように、パソコン(とインターネット)を使うことによるメリットを紹介しましたが、このほかにも、ほとんどの人が気がつかずに使っているもう1つの大きなメリットがあります。これは、「電子文字」(この呼び方が正しくないのかも知れないですが、ここではこのように呼ばさせていただきます)を使っていることです。パソコンやインターネットで使われる文字は、普通の手紙のように墨字(紙などに書かれた文字)ではなく、あくまでも文字コードと呼ばれる文字をあらわす固有の番号であるということです。

 しかし、利用者はそれを意識する必要はなく、読み手にはあたかも普通の文字であるかのように、パソコンが文字コードから文字を判断して表示しているのです。ですから、このとき読み手は、表示する文字(フォント)の種類や大きさを好みのものに変えて表示させることもできますし、点字ディスプレイを使うことで点字として、あるいは音声読み上げ装置を使うことで声としてそれらの情報を得ることができます。ですから、目の不自由な方でも同じ情報を得ることができます。また、書き手の入力方法もさまざまで、キーボードを使うにしても手を使って入力だけでなく、さまざまなスイッチなどを併用することもできますし、画面上に仮想のキーボードを表示してマウスやその代替装置を用いてキーを指定しながら入力する方法、さらには点字入力、最近では音声入力などもあります。もちろん、(あまり使われてはいないですが)手書きの文字を認識させることもできます。

 『肢体不自由者が利用可能なパソコン入力装置』(*5)は、神奈川県総合リハビリテーションセンターに勤務する伊藤英一氏がまとめるパソコン入力装置などの紹介です。リハビリテーション・エンジニアという専門的な立場からも、何らかの形で実際に使ってみての厳しい評価もありますが、「普通のカタログ集ではつまらないので少々辛口でしかも自己中心的ですでのご容赦を。」とあり、それらの中には購入前に知っておくべき大切な情報もありますので、非常に大切なものです。もちろん、入力装置以外の情報もあります。

 『福祉メディアステーション』(*6)は、岐阜県、(財)ソフトピアジャパンの支援を得て、岐阜県身体障害者福祉協会と岐阜県いきがい長寿財団が中心となって作られた組織で、病気や事故あるいは加齢などによる身体的ハンデを有する方々が、自立と社会参加を果たすためにマルチメディアを有効に活用できるように研修したり、情報を得たりできる拠点として、いろいろな機器を使うことができます。ホームページでは、これらの機器の紹介も行われています。

●Q.O.L.の向上を目指して

 このように、インターネットにはまだまだ未知の部分も多いですが、言い換えれば、あらゆる可能性を秘めているということではないでしょうか。これも、人的そして技術的などのさまざまな支援があってパソコンなどの利用が可能になったたまものであると思います。そして、インターネットを使うことで、趣味や興味があることについての情報を多く集めることができたり、在宅就労が可能になるということは、生活にメリハリが生まれるだけでなく、さらに、積極的なコミュニケーションを持つきっかけになったり、自立生活(経済的だけでなく、精神的にも)のきっかけにもなると思います。ですから、これを利用することで Challenged だけでなく、すべての人にとってのQ.O.L.(Quality Of Life:生活の質)の向上につながると私は信じています。実際に、私のところにも『福祉と障害者支援情報の総目次』をご利用いただいている方からさまざまなメールを頂きました。この中にもいろいろなご意見がありましたが、いくつか紹介させていただきたいと思います。


 30代女性
(下肢不自由)の方
 インターネットは私のような歩けなくて家ばかりにいる障害者にとって本当に助かります。たとえば買いたい品物があってもデパートに簡単に行くわけにもいかないですし、人に頼むわけにもいかない方もおられます。オンラインショッピングなら、自宅まで運んで貰えるし、代金はクレジットカードで支払うということですし・・・
 私の場合、インターネットを何に利用していいのか、まだはっきりしていません。今のところ、音楽情報集めに利用することが多いです。それと福祉関連情報を知るうえで便利なメディアです。

 20代男性
(頚損による四肢麻痺)の方
 世間の障害者に対する動向をリアルタイムでつかみ(実際、日本での動きは少ないが・・・)、自分に有益な情報(就労等)を得るのに利用している。やはり、家にいては知りもえない情報をインターネットを通じて知ることができる(いいことも、悪いことも含めて)将来的に自分が障害者に対して情報を発信できるようになれば・・・。

 ただ、このようなインターネットを利用しての情報収集やコミュニケーションをもつためには、まずインターネットを使い出すきっかけも必要ですし、実際に使っていても受け身であってはほとんどできません。つまり、自らが積極的に情報を探していくことが大切です。でも、ほどほどにしておかないと、電話代やプロバイダへの接続料も高くなってしまいますのでご注意(?)を。

●フォローアップ・コーナー

 ここでは、前回までに紹介したホームページのURL変更などをお知らせします(総目次でも、可能な限り最新情報に修正しています)。

 前回もご案内しました私の『福祉と障害者支援情報の総目次』の、移転が予定より遅れて、6月1日となってしまいました。現在は無事に、 http://www.chubu-gu.ac.jp/wic/ir/h-index.html で公開中です。


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