特別寄稿


震災、そしてインターネット

--バリアフリーへの道を拓く--


島メディア研究所代表・前NHK会長

島 桂次


島 桂次 氏 プロフィール

昭和2年8月30日 栃木県生まれ。東北大学文学部卒。昭和27年NHKに入局し、政治記者に。その後ニュースセンター次長、アメリカ総局長、報道局長兼放送総局副総局長などを歴任。平成元年4月には会長に就任し、衛星放送本放送開始などNHK改革に取り組む。平成3年に会長を辞任した後、島メディア研究所を設立。平成6年10月からインターネットを使った週刊ニューズレター「島メディアネットワーク」(SMN)の配信を開始した。現在は同研究所の代表として、コンピュータ通信による新しい形態のニュースメディアを追求し続けている。

近著:平成7年8月13日(飛鳥新社)「電子の火」---インターネットで世界はどう変わるか---が発行さる


 阪神大震災の現場には、何千というボランティアが結集し、立ち上がりの遅れた行政の隙間をうずめた。 これをマスコミは、「ボランティア決起」「ボランティア元年」と激賛した。はたしてそうだろうか。

 日本のボランティアは、今のところまだ、「離合集散」型が中心である。つまり、ある事態が発生すると、個人の立場で参加し、その事態が平静化すると去っていく「個人参加・非組織・非継続」型である。それは、都府知事選を中心とした今年の統一地方選挙や、今度の参議院選挙で顕在化した「無党派層」と同じ発想と行動形態だ。

 欧米のボランティア活動は、その発生基盤から、日本とは基本的に異なっている。そこでは、村とか町とかの小さいコミュニティーの教会を核として、相互扶助の組織として誕生し、郡とか州とか連邦とかへと、その網を拡げていき、行政との連携のもとに行動する。常時出動体制にある民間組織と言えよう。

 つまり日本の場合は、行政への一定の信頼とか、行政との役割分担とか、そのなかでの補完的任務としてのボランティアという認識が根底にある。

 一方、欧米の場合は、根底に行政に対する不信感があるのだ。アメリカは建国から二百年経っていない。欧州は侵略抗戦戦乱の歴史が続き、政権が代わるたび政策は変更され、その継承性に不信が残る。例えば、アメリカの共和党は、福祉予算の大幅切捨てを主張して、クリントン政権に迫っている。福祉国家といわれる北欧でも、福祉政策は後退してしまった。だから、自分は自分で守らなければならない、こういう認識がそこにはある。

 私が、ニューヨークで、NHKアメリカ総局長をしていたころだから、もう十数年も前のことになる。総局の現地雇員の若い女性が、事故で半身不随になった。しばらく療養の後、車いすで職場復帰が可能になった。出勤時、総局のビルに入るときには、皆で手を貸していたが、ある日、彼女は、自力で階上のオフィスまでやって来て、顔いっぱいに笑みを浮かべて、「ハロー」と手を振った。その朝から、ビルの正面入口に、身障者用のスロープが出来上がったのである。

 彼女は自分で、ビルの管理者の所に出向いて、スロープを作るよう掛け合い、実現させたのである。単独で要求を実現させた彼女も素晴らしいが、これを受け入れたビルの管理者にも敬服する。これこそ、「ノーマライゼーション」だろう。法律に守られるだけでなく、身障者と健常者が対等の関係で渡り合い、理解し合い、実現していくのである。

 だからと言って、私が「福祉」の切り捨てをヨシとするのではない。そうしたしっかりした基盤の上に立っての「ノーマライゼーション」をいうのである。インターネットとかのパソコン通信が普及すればするだけ、このノーマライゼーションはますます進むだろう。アメリカインターネット推進派は「これこそ真のアメリカ民主主義実現の手段である。多民族国家にあって、パソコンネット上では、皮膚の色も職業も年齢も差別もなく、主張し対話できるからである」と述べる。

   私が主宰する島メディアネットワークでも、インターネット上に、日本情報を週一回発信しているが、世界の隅々から、国境・民族の壁を越えて、さまざまの賛否の意見が寄せられている。これもまた、ボーダレスの、別の意味でのノーマライゼーションである。  こうしたネットワークがさまざまな分野に広がればと念じていた矢先WE'LLというノーマライゼーション、バリヤーフリーを理念とする季刊誌を発刊するのでと、協力の申し出があった。私は、真のノーマライゼーションを実現するには、インターネットに身障者と健常者がバリヤーフリーで対話し主張し、なにかを実現していけるフォーラムを開くべきだと提案し、まもなく、ユニークなWE'LLネットが開かれる運びとなった。

 これが、世界を結ぶ幹線となって、これに身障者同士の、また健常者向けのさまざまなネットがリンクし、大きな「ノーマライゼーション」世界が築かれることを期待している。

 プロップ・ステーションの竹中ナミさんにお会いする機会があった。障害を持つ人たちが社会を構成する一員として、誇りを持って支える側に回れる社会システムの創出が目標だと、熱っぽく語ってくださった。このプロップ・ステーションとWE'LLが、ネット上だけでなく、そのほかの分野でも協力しあえる日を楽しみにしている。


[バリアフリーライフ]を応援する生活情報誌「WE`LL」(ウイル)創刊!


発行の辞

 高齢になる、障害を持つなどの条件を抱えても、“物心両面ともに豊かさを感じることができる”“その条件を意識せずに生活することができる”、それが社会生活の根幹であり、本来のあるべき姿ではないでしょうか。

 しかし、わが国の現状はまだまだ健常者主体の社会であり、「本当の豊かさ」や「ふつうの生活」が、すべての人に共有できているわけではありません。障害者と健常者という区分けがされ、そこにバリアが存在しているのです。

 ウイルがめざすのは、情報を媒体としてバリアを取り去ること。ですから、編集方針は障害を一個性としてとらえた上で、誰もが共有できる情報を提供することが大前提です。
また、紙媒体だけでなくインターネットと連携して、速報性の必要な情報を電子メディアで補完するなど、取材活動から執筆までこれまでになかった新しい切り口で取り組んでいます。

私たちは本誌を多くの人に読んでもらい共感、意見、情報等を寄せていただきながら、バリアフリー社会の実現に向かって、皆さんとともに歩んでゆきたいと考えています。

1995年12月創刊号発行

この情報誌は年間購読制で、書店では購入できません。

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媒体概要
仕様/A4変形版・100ページ
部数/5万部
発行/年4回(3・6・9・12月)
年間購読料
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読者特典制度
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TEL 0422-20-9387(受付時間:9:00-18:00)
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