人 クローズアップ


山崎 博史 氏

  '93年秋のプロップ・ステーション98セミナーに受講生として参加。半年間受講する。 卒業後はボランティアとして98セミナーに参加。
'94年6月からプロップ・ウィングのデータベース「桐」の個別セミナーを受講する。
卒業後、大阪府立今宮工業高等学校の新年度要項に基づいた教務管理システム、アパレル関係の貿易会社の在庫管理システムを手がける。開発は全て「桐」。

今回の人クロは山崎博史氏。プロップ・ウィング個別セミナー受講生第1号で、ウィングから生まれた最初の実務者だ。最近、じょくそう(床ずれ)の悪化で3ヶ月入院していたが、無事完治して退院。退院直後の安静時にわざわざ98セミナー会場におこし頂いての取材となった。


編集部(以下、編):病み上がりのところわざわざお越しいただいて申し訳ありません。
今日はよろしくお願いします。とりあえず、まず最初に年齢をお願いします。

山崎(敬称略。以下、山):30歳です。

編:ありきたりな質問で申し訳ないのですが、障害と、どのようないきさつで障害を負ったのかなどをお教えください。

山:障害は、頚椎損傷です。胸から下が麻痺してます。障害を負ったのは19歳の時に車の事故でした。

編:山崎さんからは、非常に明るいイメージを受けるのですが、障害を負ったすぐから、そのことに対して納得できましたか。

山:3年ぐらいはかかりましたね。最初は「人生終わったな」と思いました。死んだ方がましだと思ってました。
生きていても面白くないだろうなとずっと考えてました。3年後も納得できたというよりも、あきらめがついたって感じですかね。まわりの友達もすごく良くしてくれましたし・・・。


パソコンは全くはじめての経験だったんです

編:その後からパソコンをされたのですか。

山:いえいえ、プロップに来て初めて触りました。

編:へぇ、そうするとそれまでは何をなさっていたのでしょうか。

山:いや、何もしてなかったんです。ただじっと時が過ぎるのを眺めていました。

編:あまり前向きな姿勢ではなかったんですね。

山:僕なんかが、こんな障害で仕事なんてできるとは思ってもいませんでしたからね。

編:どの辺から考えが変わったのですか。

  山:実は結婚することになりまして。それで嫁さんに対しても、嫁さんの家族に対しても男の責任っていうか・・・なんて言うか・・・自分で稼がなくては・・・何とかしなくては!と思うようになったんです。

編:なるほど。

山:そんな時、ラジオでプロップ・ステーションを知りまして、98セミナーを見学に来たんです。それで、可能性っていうか、うーん、なんていうか、うまく言えませんが、とりあえずセミナーを受けてみることになったんです。

編:その辺から、変わっていったというわけですね。

山:そうです。パソコンの面白さ、可能性に魅せられたって感じです。

編:でも、パソコンは最初は敷居が高くなかったですか。

山:それは、もう。何がなんだかわかりませんでした。

編:どういう風に克服していったのですか。

山:最初はキーボードの配列を覚えるために、パソコン入門みたいな本を買ってきまして、キーボードのところを拡大コピーして、それを利用してキー配列を覚えようとしてました。
ですが、やっぱりパソコンを持っていないと、もう絶対無理だろうと思いまして、それで思い切って買ったんです。
セミナーで教えていただくことを、紙に書いてもらってそれを家で復習する・・・みたいなことをやりだして、その辺からだんだんと知識は増えていったような気がします。

編:パソコンを始められて、何か自分の中で変わりましたか。

山:そうですね。集中力が増えましたね。


もっと社会について知らなくてはいけませんね

編:ウィングに行くようになったきっかけというのは何でしょうか。

山:98セミナーを卒業して、ボランティアとして98セミナーに参加していたのですが、そのときに、実務的なセミナーをします、かなりハードだけれどやってみますかと誘っていただいたんです。

編:それで、どうでしたか。

山:もう、これはやるっきゃないっていう感じで・・・。セミナーは難しかったですが、橋口先生のサポートに助けられて少しだけわかるようになったって感じですかね。

編:難しさというと、どの辺が一番難しかったですか。

山:桐の勉強もそうですが、それよりも、僕は若い頃に障害を負ってほとんど社会を知らずに来ていますので、社会の仕組みというか、企業の仕組みというか、その辺が全くわかりませんでしたので、桐で一括処理を組む(マクロを組む)と言ってもその辺が大変でした。

編:その辺はどう克服されたのでしょうか。

山:いやいや、まだ全然です。まだまだ橋口先生におんぶにだっこです。社会の仕組みについてや、企業によっての違いとか、その辺も橋口先生に教えていただきました。


パソコン通信は僕らにとって武器になりますね

編:橋口先生はウィングの桐の先生ですよね。で、橋口先生ってどういう方ですか。橋口先生には内緒にしますから本音を一つ・・・。

山:ひとことで言うと「鬼の橋口、仏の橋口」って感じです。教え方がすばらしいです。僕なんかにわかりやすく教えていただいて、本当に本当に感謝してます。

編:うーん。優等生的な回答ですねぇ(笑)。
もう少し、裏話とか、ここだけの話とか聞きたいんですが・・・、まぁ話を変えましょう。
それでは、データベースを作成されたことに関してお話ください。特に仕事をされたことなんか。

山:練習問題は、すぐにわかるようになったんですが、仕事になってくると結構考えても見なかったイレギュラーな問題などがでてきまして・・・、その辺が難しかったですね。

編:そのイレギュラーな問題っていうのは具体的に言うとどういうことでしょう。

山:たとえば、会社独自の癖とか。または、お客さまの注文とか。もう少し簡単に組めばいいのに、なんて思ったりもしたんですが、でもやっぱりお客さまですから。

編:なるほどね。「仕事」ということに関してですが、「仕事」をされたということは、お金を手にしたということですが、自分の力でお金を手にされた感想を一つ。

山:感動しました。言葉で言えないほど感動しました。先ほども言いましたが、一生仕事なんてできないと思ってましたから。

編:そのお金はどうされたんですか。

山:まず、両親を食事につれていきました。あとはまだ、ちょっと秘密です。

編:ほほう。内緒ですか。興味ありますねぇ。お答えはいただけそうもないので、ふだんの生活のお話でも聞かせていただきましょうか。
普段はどのようにされていますか。

山:午後からパソコンに向かいます。通信をしたり、データベースを組んだりしてます。

編:通信というとパソコン通信ですよね。山崎さんにとってパソコン通信とは、どのようなものなんでしょうか。

山:簡単に言うと、すばらしい世界ですよね。
たとえば、今回の仕事に関しても僕は家にいて仕事をする。それを通信を通して橋口先生に見てもらう。そして、アドバイスや指示を通信で受ける。
僕らのような障害を持つ者にとって、自宅でできるということは大変なメリットだと思います。このような形態がもっともっと広がればいいと思います。

編:本日は、お疲れのところ長々とありがとうございました。最後に、今後、どのように展開していきたいですか。

山:まだまだ、何もわかっていませんから。
もっと勉強していきたいです。桐以外のデータベースにも挑戦していきたいですし、データベース以外のアプリケーションもしてみたいですね。


[桐]講師 橋口 孝志氏 に聞く

'94年よりプロップ・ステーションの98セミナーの「桐」ボランティア講師として活躍。'94年6月よりプロップ・ウィングの実務セミナーで「桐」の講師としても活躍中。


編:どうしてプロップで講師を行うようになったのですか?

橋口(敬称略。以下、橋):1991年から93年の間、神戸の小さなソフトハウスで日本語データベース「桐」によるシステム開発に従事しましたが、従来使用してきた汎用プログラミング言語 による場合よりも、生産性が3倍以上高いことを実感しました。
この武器をボランティアの世界で活かせたら・・・と思っていた時、プロップに出会い、昨年の98セミナーで「桐」の講座を担当することになりました。

編:ウイングで山崎さんを教えるようになったいきさつ、また、学校事務管理システム作成を行うようになったいきさつを教えて下さい。

橋:昨年の5月にプロップの実務部門としてウイングが誕生し、事業の1つとしてデータベースによるシステム開発を手掛けることになりました。
参加メンバーを育成するため、98セミナーの生徒さんの中で、更に勉強を続け「仕事として、システム開発をやってみたい」という意欲を持った方を対象に、中級から上級コースの教育・訓練(3時間×週2回×6ヶ月)を開始しました。
山崎さんはその第1期生と言うわけです。
学校事務管理システムの開発は、プロップのボランティアさんの紹介で昨年の秋に依頼を受け、山崎さんの卒業作品として取り組んでもらいました。
今回作成したのは、全体の事務管理システムの内、成績データ管理の部分です。

編:山崎さんにはどのようなことを教えていますか。

橋:ご承知の様にシステム開発では、単にコンピューターやプログラムの知識・技能があれば良いのではなく、それ以上に仕事そのものに関する知識や、仕事の進め方に関する洞察力(分析と改善提案の能力)が必要です。
そうでなければ、<実務に役立つシステム>を作り上げることは到底できません。
山崎さんには会社勤めの経験がありませんので、「桐」のプログラム作成技術だけではなく、職場における仕事のとらえ方・進め方・よくありがちなトラブルへの対応方法など、私が40年余のサラリーマン生活で得た「社会人・職業人としての体験」を数多く話すようにしました。

編:山崎さんを教えながら、学校事務管理システムを作った感想を教えて下さい。また、どのような点で苦労しましたか?

橋:「桐」を利用したからこそ、これだけ短期間に、しかも開発経験のないメンバーでこのシステムが作成できたというのが最も印象深いことです。
苦労したのはプログラムの方ではなく、学校の管理業務での仕事の流れや内容を理解することの方でした。発注元の高等学校の先生方にずいぶんお世話になり感謝しています。

編:橋口さんから見て、山崎さんはどんな生徒ですか

橋:いろんなハンディキャップの中で、ずいぶん苦労されたと思います。
とにかく一生懸命頑張ってくれました。
授業で教わるだけでなく、自分で積極的に勉強する山崎さんの姿勢は他の人々にも見習ってほしいですね。

編:今後、どのようなことをやってみたいですか

橋:ウイングでは、現在「桐」の第2期生の教育・訓練を実施中です。
システム開発に携わるメンバーをどんどん増やして、職場のOA化ならどんな仕事の注文がきてもこなせるようになりたいですね。
どんな会社でも、まだまだ事務のOA化は遅れているのが実態です。職場には埃をかぶったり、活用されていないパソコンも多いのです。
そうしたパソコンに目一杯仕事をさせるためにシステム開発のニーズは無限です。開発の仕事を通じて、あなたもご一緒に社会参加をなさいませんか!


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