flanker No.11

<巻頭言>
阪神大震災に想う

プロップ・ステーション
竹中ナミ

 この度の阪神大震災で罹災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
  プロップ・ステーションは、発祥の地が兵庫県西宮市であったため、この度の阪神大震災においては、スタッフ、会員、支援者やその家族の多くが罹災しました。
  私事ですが、竹中の高齢の両親も家が倒壊焼失し、今大阪で避難生活を送っています。
  このような状況の中、私の感じたことを、長文で申し訳有りませんが述べてみたいと思います。
  皆さんに、ご一緒に考えて戴ければ幸いです。

 プロップ・ステーションは、障害を持つ人達の自立をハイテクを活用して推進しようと活動を続けて来ましたが、今回の震災では、電源と電話回線が切断されると、命を守るための情報すら満足に得られなくなる、という「ハイテク社会の落とし穴」を、まざまざと見せつけられました。
  「溢れるほどの情報に囲まれて」いたはずの私達が、生命の危険にさらされた時、SOSすら受発信出来ないことが分かりました。

 特に今回の震災では、高齢で障害を持たれた方が多数亡くなられましたが、これは、ますます高齢化が進み、障害を持つ人達が増えて行く時代を迎えるに当たって、あまりにも悲しいことだと思います。

 目が見えない人、見えにくい人は、どのように危険から身を守れば良いのでしょう。
  テレビのニュースも、聴こえない人、聴こえにくい人には単に不安を増幅させるだけだったと言います。
  言葉が出ない人、喋りにくい人は、どうやって助けを求めれば良いのでしょう。
  自力で動けない人、動きにくい人は、どうやって避難すれば良いのでしょう。
  避難経路を塞ぐ物すらまたげなければ、どうやって逃げれば良いのでしょう。
  避難後の給水車に、バケツを持って並ぶ事が出来ない人や給水車の到来すら知ることが出来ない人も有ったでしょう。

 施設福祉から地域福祉への転換期、と言葉は綺麗でも、障害者・高齢者の介護は、まだまだ家族だけが祖っている状況の中、今回のような事態に対処できる介護家庭がどれだけ有ったでしよう。
  福祉的ネットワーク、及び、情報ネットワークから取り残された介護家庭や一人暮らしの障害者・高齢者は、なすすべもないというのが現実の姿ではないでしょうか。

 超高齢化社会・・・
  四半世紀後には、救出するよりされる側の人が多い・・・という時代が訪れるかも知れない、というのに!

 罹災障害者で、組織やサークルに属している人達の安否はかなり早い時期からプロッネットを初め、草の根のパソコン通信などで情報が流されました。
  特に自立活動をしていた人達は強固なネットワークを持っているので、支援ボランティアや関係団体の人達による救出活動が即時に開始されたようです。

 しかしながら、情報障害とも言うべき視聴覚障害者の安否は、まだまだ完全には掴めていないです。
  情報の受発信が困難であるという事が、いかに危機の中で人を孤立させるかを痛感します。

 経済大国日本が今回の震災で露呈したものは、都市構造の欠陥、危機管理体制の問題点とともに「生命を護る情報網と福祉ネットワーク」の欠落だ、というのが私の率直な感想です。

 プロップ・ステーションは草の根BBS(パソコン通信)を運営し、スタッフ・会員の連絡・交流・情報交換に活用してきました。
  残念ながら、今回のような危機的状況においての即効性はパソコン通信には無い事を痛感しましたが、震災から日時が経過した現在、罹災された方の安否を含め、様々な情報収集にパソコン通信は大きな威力を発揮しています。私は今、ぜひネットワークに関心を持つ皆さんやハイテク関連の技術者の皆さんと共に、「生命を護る情報網と福祉ネットワーク」の構築について語り合い、知恵を出し合い、実現に向けての行動を開始して行かなければと思っています。
  そしてそれは、幸運にも「今回は」罹災しなかった、全ての人の義務ではないかと思います。

 現在プロップでは、大阪ボランティア協会と大阪YMCAの要請に応え、コンピュータ、音声FAXモデムなどの機器やソフトウエアについて、企業の協力を求めながら、阪神大災害援助ボランティアの登録システムとデータベース・プログラムの作成を行っています。
   「ボランティア登録開始」の広報後、3日にして3000人を越える人達から申込みが有り、なおかつ刻々と登録者が増えている伏況の中、「必要な時、必要な場所に、必要なボランティア」を投入するためには、「どんな人が、何時、どんな内容の活動が可能なのか」が即座に分かる、適切な形式で作成されたデータベースが緊急に必要だからです。また、FAXの自動音声応答によるボランティア登録も出来るよう、「FAXBACシステム」も作っています。
  震災後の救援活動は、半年、あるいは1年以上のタームになりますから、息の長いボランティア活動のために、こういったシステムは必要なのです。

 ハイテク産業に従事する技術者や企業ならではの救援活動として、今、何が出来るのかを、関係者は真剣に考えて戴きたいと思います。
  避難所生活を余儀なくされている方々の生活に役立つハイテク機器、ハイテク技術が必ず有るはずです。
  プロップが今、ボランティア・エンジニアの方々の力を借りて行っているデータベース作り等のように、私たちの提供が可能な技術での、直接、間接の援助の方法がきっとたくさん有るでしょう。
  重要なのは、「その場に自分が居たら、どんな事を望むだろうか」という、わが身に置き換えた温かい「想像力」と、「自分に出来る範囲の援助をする」という真摯な態度だと思います。

 ハイテクが命を救えなかったという重い反省を込めて、プロップはプロップに出来る範囲の行動と、呼びかけを行いたいと思います。「生命を護る情報と福祉のネットワーク」構築のための、幅広い論議を始めましょう!

「みんなで プロップ!」
竹中ナミ@プロップステーション
(「プロップ」は、「支え合い」を意味する言葉です)

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