第11回チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)2006
国際会議 in TOKYO 議事録

各国のチャレンジド・ゲストからのメッセージ

「ユニバーサル社会への道」
(タイ スポンタム・モンコンサワディさん)

竹中/ 続いて、タイからいらしたスポンタム・モンコンサワディさんのお話です。
モンコンサワディさんは、ご自分のパソコンでパワーポイントの資料を使いながら、お話しいただきます。お願いします。(拍手)

モンコンサワディ/ 皆さん、こんにちは。タイ語では「サワディカー」と言います。どうぞ、よろしくお願いします。

このような機会をいただき嬉しく思います。日本においてもタイにおいても、これまでに、これほどすばらしくパワフルなセミナーに参加したことはないと思います。

最初に、われわれのたいへん長い関係に触れたいと思います。日本、タイ、スウェーデン、アメリカの関係には、たいへん長い歴史があります。特に、タイと日本の間には、王室と皇室の交流があります。

今年タイでは国王の在位60年を祝っていますが、国王は35年ほど前にこう言いました。「チャレンジドは障害者になろうと思って生まれたわけではない。チャレンジドへのサポートとは、自立を助けることだ」と。この言葉を、皆さんにぜひ伝えたいと思います。私はその国王の言葉に従い、社会を支えたいと思って、やってきました。

昨年、私は神戸に行く機会(前回のCJF)に恵まれ、われわれのパタヤ市での取り組みをご紹介しました。今年は、また違った角度から、われわれの活動を紹介したいと思います。皆さんの参考になれば、ユニバーサル社会を作る上での一助になればと思い、その話をさせていただきます。

パタヤでの取り組みですが、私どもの組織ができたのは20年ほど前のことです。最初はレデンプトリスト障害者職業訓練学校から始めました。ここでは、コンピュータサイエンス、プログラミング、英語などを学ぶことができます。これまでに、だいたい2万人くらいの卒業生がいます。そして、全員が職に就いています。これは、たいへん誇らしいことです。多くの卒業生が、チャレンジドが能力を持っていることを社会に示しましたし、他のチャレンジドを助けています。

1990年には、障害者の就労支援のための新しい組織を立ち上げました。

一般企業は、まずチャレンジドをどう受け入れれば良いかに悩みます。そこで私たちの組織が企業の方に出向いて、マッチングサービスをします。つまり、チャレンジドに合った仕事を探します。また、自営業のためのプログラムを進めています。セミナーを開いたりしています。これも就労支援の当局の下でやっています。

2000年には、また別の組織を立ち上げました。レデンプリスト障害者福祉財団です。
これは、最初にできた2つの組織が持続可能なような財政的なサポートするために作りました。

2年前からは、新しい取り組みとして障害者自立生活センターを開設しています。主に地方のチャレンジドを力づけることに焦点を当てて取り組んでいます。

昨年はプロップ・ステーションの取り組みを学びましたので、それを参考にタイ国内でもやっていきたいと思っています。

私には上司がいます。そもそもの創設者で、人を愛し、皆にインスピレーションを与えてくれる人。レイ・ブレナン神父です。残念なことに3年前に他界されましたが、亡くなられた後も、われわれの活動には彼の足跡がそのまま残っています。

職業学校、就労支援、自立生活センターの3つの活動について説明します。

私たちの活動は社会全体を考えて取り組む必要がありますが、いくつかの活動を通じて社会の変わるスピードが非常に遅いことを認識しました。どうすれば効果的に目指す社会を作れるか、あるいはその社会作りをスピードアップできるか、考えました。友人たちと一緒に戦略を立案しました。

その中でわかってきたことは、ユニバーサル社会を作るためには、まず社会的な認識(ソーシャル・アウェアネス=Social Awareness)を形成していく必要があるということです。「ソーシャル・アウェアネス」はわれわれの取り組みにとって最もパワフルなキーワードの一つですが、同時にそれを理解していない人もいます。まずは認識してもらう必要があり、そのためには説明が必要です。

人々に支持してもらうために何をしているかは、あとで話しますが、とにかく一般の人たちの認識が高まらないと、ユニバーサル社会は作れません。

社会の認識が高まると、それはチャレンジドとその家族を力づける大きな動きになります。社会の理解が広まれば、社会はチャレンジドとその家族をサポートするようになります。彼らが寂しいとか孤立しているとか感じることもなくなります。それがまさに、私たちが信じている社会の大きな力です。そして、チャレンジドが力づけられると、それによってさらに人々の認識が高まり、ユニバーサル社会をもたらすことになります。

私たちは政治的な意志をもって、われわれの取り組みを支援するようなメカニズムを作る必要があります。ですから、チャレンジドと家族が一緒になって、こういった状況を作り上げていこうと取り組んでいます。

障害者とその家族を力づけることについてもう一つ言うと、バリアフリーな環境と移動手段を作っていく必要もあります。そして、最も大切なのは雇用です。チャレンジドが教育を受けて、仕事に就くことができれば、ユニバーサル社会に貢献することができます。
この道筋が、われわれの立てた戦略です。

もちろん、他にもやらなければならないことはたくさんありますが、やはりリソースには限界があるので、今ここに示した図、これがまずわれわれがやろうとしていることです。
今年から3年間かけてやろうと思っています。一部はすでに始めています。もっと注力して、さらなる活動を続けていきたいと思っています。

では、行動計画のそれぞれの項目について説明していきます。

まずは、「ソーシャル・アウェアネス(社会の認識を高めること)とアドボカシー(人々に考えを説いて目的へと導くこと)」です。

「一緒に生きよう」というキャンペーンを張りたいと考えています。

学校の先生、聖職者、病院のスタッフといった人たちの多くが、まだ共生やユニバーサル社会という考え方を持っていません。たとえば、事故に遭って怪我をした人が病院に担ぎ込まれれば、病院の人たちはその人が死なないように、早く家に帰れるように努力します。しかし、多くの人と話を聴いてみると、家に帰って来てもずっと家にいるだけでは、死んだも同然ということです。

ですから、私たちはそういう人たちも社会で一緒に生きるというキャンペーンをしなければなりません。先ほどスウェーデンと米国の方がおっしゃったように、やりたいことができるという、そういう社会を目指すキャンペーンです。私たちの州の学校を回って児童生徒と話しをし、教師とも話をし、また寺院にも行って多くの人とそこで話をするつもりです。

もう一つキャンペーンを企画しています。私たちは「人生はすばらしいキャンペーン」と呼んでいます。

人々のものごとに対する認識や姿勢は、官僚、政治家、ビジネスの世界の人々、地域社会のリーダーなど、立場によって異なると思います。障害のある人の支援について「やりましょう」と言ってくれる人はいると思いますが、すでに人間の尊厳や権利を尊重する考え方を持っている人とは限りません。ですから、その点について詳細にわたって理解してもらうキャンペーンをしたいと考えています。

障害を持つ人がいると聞いて「わかりました。支援しましょう」という話は、だいたいが財政的な支援です。しかし、人間としての要素について本当の意味で理解してもらうことの方が、より重要です。

私たちは、誰もが情報を得られるように情報提供をする体制も作ろうともしています。
また同時に、番犬の役割もしようと思っています。政府のやり方などに対する不満の電話もありますので、どうなっているのか目を光らせる番犬の役割を、別のチームを作ってやろうと考えています。

それから、スポーツ活動、観光、そのほかの活動のキャンペーンもします。たとえば、スポーツの国際イベントを組織したり、「ウェルカムツアー」を企画したりして、日本、スウェーデン、アメリカ、オーストラリアなど、いろいろなところからパタヤ市を訪ねてもらえるようにしたいと思います。

このような企画は、人々に「なるほど、誰もが同じような人生を持てるようにすべきなんだ」と認識してもらう一助になると思います。単に教育や仕事だけでなく、スポーツやレジャーの活動についても、そのことを認識してほしいと思います。

いろいろな広報活動も行っていきます。今回のフォーラムもその一環と位置づけています。それから、自立生活の考え方を広めたいと思います。そのために、セミナーやトレーニングを行って、障害者およびその家族、そしてコミュニティの方に参加をしていただきたいと思っています。情報提供も行います。また、学術的な分野でのサポートも行っていきます。

いずれにしても、家に閉じこもらず、どんどん外に出て行ける力をつけるための取り組みを、いろいろやっていこうと思っています。ITの活用もその一つの方法です。

ネットワーク作りもやっていきます。チャレンジド同士、家族間、コミュニティ間、国際間をつなぐネットワーク作りです。そのネットワークがたくさんの力を持つことになると思います。

もう1つ。政治的な視点に立ったメカニズムづくりが必要です。そんためには、ロビー活動が必要になります。そのあたりのことは、皆さんにも教えていただかなくてはなりません。それからまた、資金集めやさまざまなリソースの動員の計画も必要です。特にコミュニティのための計画が必要です。

リソースというのは、お金だけではなく、積極的な姿勢など労力として提供してもらえるものも必要です。そして、私たちは新しいアクセシビリティに関する法律も作らなければなりませんし、法の執行や公共政策という面もたいへん重要です。そのためにもやはり、政治的な視点とメカニズムが必要です。

バリアフリーな環境と交通手段も重要です。建築士や関連する方々にトレーニングをしたり、学習していただくことが必要です。私たちは、主に観光業界や公共施設に関わる人のためのアクセシビリティ・ガイドブックを作るつもりです。公共交通システムのアクセスを良くするキャンペーンも行う必要があります。公共交通システムが提供できない場合には、電話すればタクシーが来てくれるようなコミュニティのサービスを考えています。

次に、雇用です。これも非常に大事です。重要な側面です。

タイでは、統合的な教育を推し進めています。それは障害者も含めてコミュニティの誰もが一緒に勉強するということですが、最も重要なのはその教育が雇用に結びつくことです。そういう観点から、学校とも話し合いをして、統合教育の促進に寄与しています。

われわれは、キャリアガイダンス、職業相談、職業の斡旋、職業訓練などの就労促進活動をしていますし、自営での開業も推進しています。民間企業や業界団体を訪問する取り組みもしています。

以上がわれわれの行動計画です。最後にこう申し上げて終わりにしたいと思います。チャレンジドにとって成功することは、まさにチャレンジです。皆さん、どうぞパタヤ市にいらしてください。是非、パタヤにいらしてください。そして一緒にユニバーサル社会を作っていきましょう。(拍手)

竹中/ ありがとうございました。たいへん示唆に富んだ具体的なお話をいただきました。そこで、ぜひ坂本さんと浜四津さんから、ひと言ずつ、コメントをいただきたいと思います。では、坂本さんから。

坂本/ 障害者が自立するためには職業を持つことは大切です。それを、組織的に段取り良くやっておられる。素晴らしいシステムができていると思います。まず、多くの人の認識を変えていただく。一方、1人1人のチャレンジドに対して、きっちりとその能力を伸ばす訓練をする。この両面は、とても大切なことです。

私がアメリカにADA法の視察に行って強く思ったのも、チャレンジドが自立するには教育・訓練が重要だということでした。それを、いまタイで実施しておられるので、タイのチャレンジドに限りない可能性が与えられると思います。すてきなことです。

私は昔、労働省で仕事をしていまして、チャレンジドの職業訓練をやっておりました。
こういうことを、今日はアメリカとスウェーデンの方もいらしていますが、みんなで知恵を集めてやっていくと、世界のチャレンジドもつながって、素晴らしい成果があげられるのではないかと思います。

竹中/ ありがとうございます。今日の会は、つながりあうための会かなと思います。それでは浜四津さん、お願いします。

浜四津/ モンコンサワディさんは、ユニバーサル社会を作るための的確な視点に立っておられて、具体的指摘をしていただきました。

ユニバーサル社会を作るための条件をいくつか挙げられました。その中で、「日本はある程度まで来ているな」という点と、「これから本格的に取り組まなくてはいけないな」という点があることを認識しました。

1つは、社会の人々の認識を高める活動。共生のキャンペーンや、「人生はすばらしい」キャンペーンは、わが国も学ぶことができるなと思いました。

2つ目は、政治的決断が大事だという点。これは私ども政治家の責任だと思います。基本法を作って、きちんと予算の裏付けも取って進めていけるように取り組みたいと思っています。

また、バリアフリーの環境作り。これについては自公連立与党で、交通バリアフリー法を作り、ハートビル法を作り、さらにそれを統合した新交通バリアフリー法も作りました。これについては、日本はけっこう進んでいると思います。

日本が最も遅れているのは、雇用の面かなと感じました。タイでは、教育を障害者に合った仕事に必ずつなげるというお話がありました。その「つなげる」ところが、日本は欠けているかと思います。

障害を持つ方々は、自分に合った仕事をどう見つけていけばいいかに関して、充分な支援を受けられていない面があります。一方、企業の側。先ほど58%の企業が法定の雇用率を達成していないという報告もありましたが、これは「あえて雇わない」という積極的な意志ではなく、どう受け入れたらよいか分からない結果、受け入れ方を知らないことの結果だと思います。ここをどうつなげるか、連携をどう図るっていくか、日本にとっての大きな課題だと感じました。取り組んでいきたいと思います。

竹中/ ありがとうございました。

アメリカ、スウェーデン、そしてタイ、3つの国のチャレンジドの皆さんから、すばらしいお話をうかがいました。この中で最も感じたのは、「単に銭金の話とちゃうで」と。
「意識やで、心やで」ということでした。みんなが一緒に生きていける社会と信じることが、まずすごく大事なんやなというふうに改めて思いました。

そのために、法律の整備やいろんな仕組みを作り上げるのが必要なのですが、「一緒に生きていけるんやで」「それが当たり前なんやで」という気持ちのベースがないところに法律だけ作ってもアカンのやなと改めて思いました。

同時に、障害があろうがなかろうが、ユーモア、ヒューマンなもの、笑顔、そして自分を肯定する気持ち、そういうものがいかに大事かということを思いました。特に今日のゲストの皆さんから感じたのは、そういうものをご家族からも受けて育ってきたこと。すばらしいなと思いました。そういう意味で、海外からの3人のお話は、たぶん、たくさんの方の心に残ったことと思います。

この後は、日本のチャレンジドが登場します。

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